「ミャンマーにメンタルケアの定着を」 悩み聞くアプリを開発 チームフロー・ミャンマー創業者の寺澤彩さん

 

ミャンマーでは精神疾患やうつ、ストレスなどメンタルヘルスに対するケアが遅れていると指摘されている。そんな中で、ミャンマー人のストレスを軽減しようと、悩みを匿名で打ち明けることができるアプリ「ミーピャタイ」を開発したのが、チームフロー・ミャンマー創業者で最高経営責任者(CEO)の寺澤彩さんだ。どうしてミャンマーのメンタルヘルス分野で起業したのか、その狙いを聞いた。

 

――ミーピャタイは、匿名で悩みを聞いてほしいユーザーと、トレーニングを受けた匿名のボランティアをマッチングさせ、チャットで悩みを聞いてもらうことができる仕組みですね。どうしてこのようなアプリを開発しようと考えたのですか。

 

そうですね。もともとミャンマーの国際機関やNGOなどで内戦後の復興の仕事をしていたのですが、どうしてもインフラ整備などプロジェクトを進めるうえで、ひとりひとりに寄り添えていないという考えを持つようになりました。もっと丁寧に個人の問題を解決していきたいと思ったのです。そこでミャンマーから日本に通ってコーチングの資格を取りました。そしてヤンゴンで起業家支援団体「パンディーヤ」の講座に通いながらメンタルヘルス関連のビジネスを立ち上げを目指したのです。

 

寺澤彩(てらさわ・あや)さん

 

1980年沖縄県生まれ。米国で仕事をしたのち、国連平和大学で修士号を取得。2013年からミャンマーの国連機関やNGO、企業で働く。2018年にチームフロー・ミャンマーを創業して、現在最高経営責任者(CEO)

ミャンマーではメンタルケアが大変遅れています。東南アジア諸国連合(ASEAN)のうちで、ミャンマーが最も自殺率が高いという統計もあります。さらに深刻なことには、その自殺率が高い原因についてしっかり分析が行われていなければ、対策も立てられていません。また、ミャンマー人が周囲に相談しようにも余計なアドバイスをされたり、勝手に善悪を判断されたりして、なかなか気軽に話ができない環境もあります。そこで、匿名で一対一で話を聞いてもらえるアプリを作ったのです。

 

――非常にユニークな仕組みだと思うのですが、今のところ反応はどうでしょうか。

 

はい、ミーピャタイは英語圏で普及している「7カップス」というアプリを参考にして開発しました。1月中旬の開始直後に話題となり、1週間で1,200回ダウンロードされました。これはあまりアプリをダウンロードしないとされるミャンマーではかなりの数字なのですが、もっと驚いたのは「ボランティアになりたい」という人が殺到したことです。国外にいるミャンマー人からも申し出がありました。こうしたことが運営側のキャパを越えてしまい、現在いったん休止してバージョンアップを図っているところです。

 

――この分野はミャンマーでは非常に課題が多いですね。また、アプリの収益化も必要になってくると思います。今後の展開をどう考えていますか。

 

そうですね。現在、メンタルヘルスに関わるミャンマー語のポータルサイトを作ることを目指して、クラウドファンディングで資金調達する準備を進めています。ミャンマーの環境では、アプリで聞いてもらうだけでは解決しない問題も大きいのです。例えば、より重度な問題を抱える人には専門的なカウンセラーや精神科医につなぐ必要があるでしょうし、ドメスティックバイオレンスに悩むひとには、別の形の支援が必要になります。ミーピャタイはただ相談を聞くだけなので、ポータルサイトを作ることで、より多くの情報にアクセスできるようになるはずです。すでに「安くて親にばれないカウンセラーを紹介してほしい」などの相談も寄せられています。カウンセリング会社ともネットワークがありますので、どの会社にどんな分野が得意かなどを情報提供することもできます。日本の例を調べましたが、10代向けなどメンタルヘルスについての情報がとても充実しているのですね。

 

ミーピャタイは我々のソリューションのひとつとして位置づけていくことになると思います。将来的な収益源は広告のほか、カウンセリング企業などへの紹介料などを想定しています。また、企業向けにカウンセラーを派遣するなどのB to Bのビジネスモデルも考えています。

 

このサービスを始めてから、ミャンマーのメンタルヘルス関連の会合に呼ばれる機会が多くなりました。カウンセラーら関係者と意見交換をしているのですが、彼らの勤務環境は深刻で、何らかの改善が必要だと思います。例えば、心理的なカウンセリングだけでなくて、ソーシャルワーカーのような具体的に相談者の問題を解決する仕事も行きがかり上、担わされてしまっています。また、カウンセラーを法的に保護する法律もなく、何か問題が発生した場合に責任を問われる恐れがあります。そのため、このサービスを始めた時に、業界関係者からは「彩は超勇気あるよね」と言われました。こうした法整備など業界全体の環境整備も必要ですので、政策提言や環境づくりもミャンマーの専門家とともに進めて行きたいと思います。

 

【インタビューを終えて】

紛争地で働くことを夢見てミャンマーに赴任し、今はミャンマー人の心のケアを支援する。これだと思った道に進んでいく彼女の人生の切り開き方はすがすがしい。ミャンマーのメンタルケア分野は課題が多く、彼女のビジネスにはいくつものハードルがあるはずだ。それでも、こうした挑戦者が一歩一歩問題を解決に近づけていくに違いない。(掲載日2019年4月5日)