諦めかけたベルトの夢つかむ 「ラウェイ背負い世界へ」 ミャンマー伝統格闘技のチャンピオンになった金子大輝さん

ミャンマーの伝統格闘技ラウェイは、世界一危険な格闘技とも呼ばれる。キックボクシングに似ているが、バンデージのみの素手で殴りあい、頭突きや投げ技も認められ、KOでないと勝負がつかない。最近は、日本でも大会が開かれ、注目されている。この過酷なラウェイにミャンマーのジムで修業してタイトルマッチに挑戦、王者の座を手にしたのが、プロラウェイ選手の金子大輝さんだ。12月10日の「KBZ航空ゴールデンベルトチャンピオンシップ」で前年王者のテッアウンウー選手を1ラウンドKOで下した。試合はミャンマーではたびたびテレビ放送もされ、日本よりもむしろミャンマーで有名になっている。豊かな日本から、どうしてわざわざアジア最貧国のひとつであるミャンマーの格闘技に挑んだのか、その思いを聞いた。
――家庭は体操一家だったと聞いています。どうしてプロの格闘家の道を選んだのですか。また、なぜラウェイに挑戦したのでしょうか。

 

僕は高校まで体操競技の選手でした。格闘技に興味を持ったのは、実は漫画の「グラップラー刃牙」を読んでからなのです。この漫画に触発され、高校3年の時に格闘ジムに通い始めました。そして総合格闘技の試合に出て、中国に遠征にも行きました。そうした中で、知り合いのプロモーターの方から「ミャンマーのラウェイに出てみないか」と声をかけていただいたのです。素手で殴り合うということで、格闘家仲間は「ドン引き」でしたが、私はすぐに出ると返事をしました。怖くはなかったです。だって、格闘技はもともと素手でやるものでしょう。刃牙も素手ですし。

 

2016年2月に、地元王者のタペーニョ選手と対戦し、敗戦しました。そこで、このままでは終われないと思い、ラウェイに再挑戦することにしたのです。その後大学を卒業し、そのまま日本やミャンマーでラウェイの練習に励みました。ラウェイで強くなって、ベルトを持って帰るのが目標でした。頭の骨のとがったところで頭突きをしたり、額の固い部分で相手のパンチを受けて拳を破壊したりと奥の深いラウェイの技を知ると、ラウェイを好きになっていきました。そして、ミャンマーにはこんなにすごい格闘技があるんだということをもっと知ってもらいたいと思いました。


金子大輝(かねこ・だいき)さん 

 

1994生まれ、23歳。高校まで体操競技で活躍、その後格闘技を学ぶ。国士舘大学在学中にラウェイの試合に出場したのをきっかけ、卒業後プロの格闘家になる。2017年12月、「KBZ航空ゴールデンベルトチャンピオンシップ」でテッアウンウー選手を下し67キロ級のタイトル獲得。

――日本での大会では体重差のあるルクク・ダリ選手(コンゴ)に自ら挑み、敗れました。今年7月には王者のタペーニョ選手と再戦しますが惜しくもドクターストップで負けています。幾度の敗戦を経てのベルトですね。

 

ルクク選手とタペーニョ選手に2連敗したときは、本当につらかったです。今考えると、この時期は自分がやるべきことができていなかったと思います。焦ってルクク選手に挑戦し、結果が出せませんでした。また、タペーニョ選手に負けた際には、一度は格闘技をやめて就職をすることを決め、母親と格闘技の先生にヤンゴンから「もうやめる」と電話しました。しかし母からは「何のためにミャンマーにわたったのか」としかられ、先生からは「お前は最高だから」と励ましていただきました。そのほか、ミャンマーや日本のたくさんの人から応援され、再びトレーニングを始めたのです。それまでパンチ中心だったトレーニング方法を改めました。また、以前は町の不良の方々に殴ってもらうというトレーニングをしていたのですが、敗戦が続いた時期にはできてなかったのです。これは、型通りでなく予想のつかない攻撃が来るので、実践的なのです。こうしたトレーニングも再開して、今回の試合に備えました。今回の試合で念願のチャンピオンベルトを持って帰ることができて、本当によかったと思います。想像以上に多くの人に喜んでいただきました。自分にはまだもったいないベルトですので、このベルトに見合うような立派な人間になりたいと思います。

 

――ミャンマーではファイトマネーも高くないうえに、けがの危険もありますね。そういう意味でも大変な道だと思います。

 

現在は、格闘技の先生が関係するラーメン店で働きながら、トレーニングをしています。ファイトマネーに関しては、ミャンマーでも大きな大会はそれなりの額が払われるようになってきていて、今回の試合は、渡航費も支給され、日本の大会とあまり変わらない金額を頂いています。今まではスポンサーを募ることはしていなかったのですが、パンツやガウンに社名を入れるなどして、企業の方々の協力を得たいと思っています。

 

――今後の抱負を聞かせてください。

 

チャンピオンになってから、いろいろなお話を頂いています。ラウェイでは、日本の大会がありますが、できればミャンマーで試合をしていきたいと思います。ミャンマーのジムでトレーニングを積むこともできますし、所属ジムのサポートも受けることができるからです。日本ではむしろ、「RIZIN」のような総合格闘技の試合に出たいですね。総合では寝技がありますが、もともと総合の経験はあるのでトレーニングすれば対応できると思います。頭突きは禁止なので、うっかり出さないようにしないといけないですね。ラウェイスタイルを中心として、寝技などにも対応するような闘い方になると思います。一貫して「世界最強になりたい」という思いがあります。現在はUFCが世界最強だと思っているので、いずれラウェイファイターとして出場したいですね。

 

【インタビューを終えて】

私は、金子さんがヤンゴンで出た試合はすべて取材している。真っ向から勝負をするスタイルで、早いラウンドで鮮やかなKOを決めるときもあれば、壮絶な打ち合いの末マットに沈んだこともあった。敗戦後のインタビューで引退をほのめかしたこともあった。それでも周りに支えられ、挑戦を続けた金子さんが念願のラウェイのベルトを手にし、自分の道が間違っていなかったことを確信したのだろう。そういった口ぶりだった。今後ますます険しくなる世界への道だが、今後も挑戦を続けてほしい。(掲載日2017年12月22日)