「いずれ日本で通用する番組を作ってほしい」  テレビ局を実質運営するドリームビジョンの山本浩さん

 

2011年の民政移管の前後まで、マスコミが厳しい統制下におかれていたミャンマー。そのミャンマーで地元テレビ局を実質的に運営することになったのが、日本のNHKグループや政府系ファンドが出資するドリームビジョン(DVC)だ。長い言論統制で人材不足に陥っているこの国で、どうやって次世代のテレビ局を作っていくのか、NHK出身でドリームビジョンの実質トップにあたるスペシャル・アドバイザー、山本浩さんに聞いた。

 

――ドリームビジョンは、クールジャパン機構、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)、NHKグループと、ミャンマーのシュエタンルイン・メディアグループが出資する合弁会社ですね。ミャンマーの地上波テレビ局MNTVを事実上運営しているということですが、どうしてこのような会社を作ることになったのでしょうか。

 

そうですね。まず、ミャンマー側から、放送局を立ち上げたいので協力してくれないかという要請がNHKにあったのです。


山本浩(やまもと・ひろし)さん1963年京都府生まれ。大阪外大卒業後の1986年にNHKに入局。カイロやロンドンで特派員を務めたのち、海外への日本コンテンツの普及に携わる。2018年4月のドリームビジョンビジョン誕生とともに、同社の実質トップのスペシャル・アドバイザーに就任。
それでまずは、2013年に大河ドラマの「篤姫」をMNTVで放送して鹿児島県の関連番組を作ってもらったり、スカイネットでNHKワールドを放送したりという協力から始めたのです。そして数年間、協力をやっていく中で、MNTVのスタッフの実力とやる気を感じ、この人たちだったら一緒にできるという思いがあったので、NHKとしてコミットすることに決めたのです。

 

――日本のポップカルチャーなど文化やコンテンツの世界発信の必要性が叫ばれてきたころですね。ミャンマーでも韓流ドラマが人気で、日本コンテンツは押されていますが、この状況をひっくり返すことはできるのでしょうか。

 

国際的な競争の中で日本の情報発信力を強めるという観点はバックボーンとしてあります。ただ私としては、ミャンマー人がミャンマー人のためのコンテンツを作れるようになる支援が大切だと思っています。すでに日本で成功しているコンテンツがあるので、それ教材にしてミャンマー人で作ってみるという取り組みを進めています。例えば、6月に放送開始を予定している幼児番組「いないないばあっ!」のミャンマー版ですが、日本では3歳児にテレビを見せていいのかなど様々な議論がなされ、ひとつひとつのシーンやカットに意味があります。そのため、似たようなものを作ろうとしてもなかなかできないのです。ありがたいことに、日本のプロデューサーが、これがミャンマーで通用するのか興味を持って熱心に協力してくれています。ミャンマーのチームを日本に招き、スタジオを見てもらっています。例えば、犬のワンワンという着ぐるみが出てくるのですが、これも湿気をしっかりとったり、空調のある部屋で保存したりしないと、変色やカビの問題が起こります。そうした必要なノウハウも伝えています。

 

韓国は国策として文化の海外展開を進めているところがあり、今後もいいコンテンツが出てくるのだと思います。すでに習慣化しているところもあり、ミャンマーでこれを日本がひっくり返すのは現状では難しいでしょうね。しかし、ミャンマーの状況は変わっていきます。韓流ドラマは、まだミャンマーのコンテンツが少ない時期に市場を席巻したものですが、今後はミャンマーの制作者が力をつけて、ミャンマー人による番組が充実していきます。そうすると、韓流ドラマの必要性は薄れるでしょう。そこで我々がどうするかというと、やはりミャンマー人による制作を後押しすることと思います。そうした活動を続け、関係を築いていくうちに、自然な形で日本の存在感が増すのではないでしょうか。

 

――自社制作番組の充実に力を入れていますね。森崎ウィンさんがホスト役の「ウィンズ・ショータイム!」も始まりました。

 

森崎さんとは実は、彼が日本でもミャンマーでもまだそんなに売れてないときからジャパン・ミャンマープエドーで仕事をしていました。まだドリームビジョンができるかわからない頃でしたが、「ミャンマーに(テレビ局を実質運営する)会社できたら、レギュラーで番組をやりましょうよ」と半分夢物語のように話していたのです。それが本当に実現したのですが、そうしたら彼がスピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」で人気が出て、逆にスケジュールがきつくて大変なことになってしまいました。それでも、事務所をあげて協力してくれているので助かっています。

 

これは日本流の次から次へと企画を盛り込むバラエティですが、制作がものすごく大変なのです。たとえば、番組内の10分程度の歌のコーナーを撮影するには、日本のやり方ではカット割りがあって、それにそってカメラを動かします。しかし、ミャンマーの歌番組では台本などなく、そのまま撮影しています。そうすると、ミャンマーのやり方よりも非常に手間がかかり、10分のシーンがひと番組を作るのと同じくらいの労力がかかることにもなります。それを毎週作る必要があります。地元スタッフからは「時間がないのにそこまでしないといけないのか」という声が漏れるけれども必要だから説得してやるという繰り返しですね。一方で「できる範囲でしかやらない」という姿勢も大事だと思います。

 

そのほか、報道番組の充実にも取り組んでいます。ミャンマーでは最近までニュースは事前収録で、生放送はありませんでした。これを2月下旬から夜7時のニュース番組を生放送で行う準備をしています。現場からの生中継も行います。これはこれは大きなプロジェクトでして、ワークフローなどを一からマニュアル化して、別のチームを作ってシミュレーションをしています。これまで生放送、例えば午後1時に編集会議で、その後30分ごとに進捗をチェックして、というようなことを試行しています。また、誰がニュースを判断するのか、放送中に大きなニュースが発生したらどうするのか、間違いがあった時にはどう訂正を出すのかなどの訓練を一生懸命やっています。この議論は、ミャンマー人スタッフを中心に行っています。今までなかったものに挑戦するということで、現場のモチベーションがどんどん高まっていっています。熱気あふれる議論になっています。放っておいたら、いつまででも議論していますね。

 

――今後の展開をどう考えていますか。

 

いいコンテンツを作れば、視聴者が集まり、ひいてはスポンサーもついてきます。まずは、いい番組を作ることと思います。ゆくゆくはそれを、アジアに輸出できるようにしたいと思っています。最近入ってきて頑張っているような若手が10年たてば中心となって番組を作っていくことになります。そしてそうした人材が海外でも通用するようないい番組を作ってほしいと思います。いつか日本にも輸出できるような番組ができるのではないかと考えています。

 

【インタビューを終えて】

ミャンマーでは、ヒップホップ風の韓流スターをまねたファッションに身を包む若者も少なくない。私の知人はインターネットの韓国の時代劇を観るために、ひと時もスマートフォンを手放さない。これは韓国が国策として官民挙げてコンテンツ輸出を進めてきたからだ。そのような中で、無理やりコンテンツを広げる「売らんかな」の姿勢ではなく、ミャンマー人独自の良質な番組作りができるスタッフを育てることで日本の存在感を発揮するという山本さんのやり方は、いかにも日本らしいアプローチだと言える。ミャンマーにとってみれば、海外発のドラマやニュースばかりではなく、ミャンマー人が自ら制作するということは、視聴者にとっても、国にとっても重要なことだ。そうした本質的な部分を支える取り組みが実を結んで、日本でもミャンマーの番組が流れる日を心待ちにしたい。

(掲載日2019年2月8日)