制裁で途切れたビジネスの歴史、再び一から構築 パナソニックのミャンマー支店長の前田恒和さん

 

戦後すぐからミャンマーに工場を持っていたパナソニック(旧松下電器産業)。米国の経済制裁の影響で撤退を余儀なくされ、一度は拠点を失った。そのパナソニックの拠点を一から立ち上げたのが同社ミャンマー支店長の前田恒和さんだ。前田さんに、ミャンマーの家電業界にどう再び切り込んだのかを聞いた。

 

――パナソニックは、かつでミャンマーに工場を持っていたそうですね。

 

そうなのです。日本の戦後賠償のスキームで、ミャンマー政府との合弁という形で、当社のほか、久保田鉄工(現クボタ)、東洋工業(現マツダ)、日野自動車が進出しています。パナソニックは、5つの工場で電池、冷蔵庫、エアコン、モーターなどを生産していました。いろんな資料から推測すると、1万人くらいを雇っていたようです。創業者の松下幸之助が表紙を飾った米タイム誌を見たミャンマー政府高官から協力を依頼されたことがきっかけでした。当時は、パナソニックとしても海外進出を進めていた時期でもありましたので、時流に乗っていました。


前田恒和(まえだ・ひさかず)さん

 

1970年生まれ、大阪市出身。大学卒業後に松下電器産業(現パナソニック)入社。ドイツやイギリス、シンガポールなどに駐在し、海外営業畑を歩む。2013年からヤンゴン駐在、ミャンマー支店を立ち上げて支店長に就任した。

しかし、米国が経済制裁を強化したことで2003年、パナソニックはミャンマー撤退を余儀なくされました。グループ会社が行っていた事業も含め、2007年までには完全に撤退しました。米国でのビジネスは当社にとって非常に大きいので、やむを得ない判断であったと思います。その間は、現地代理店を通して細々としたビジネスを行ったり、現地のサービス会社によってメンテナンスなどを行っていました。そして民政移管でテインセイン大統領が誕生し、進出企業が押し寄せる第二次ミャンマーブームが到来しました。そこで、シンガポールに勤務していた私がミャンマーで拠点を再構築することになり、2013年に赴任しました。

 

――2013年は、第二次ブームでも走りのころですね。支店を立ち上げてから、何に力を入れたのですか。

 

はい、初めは3つのことをしていました。ひとつは代理店との関係の回復、ふたつ目はミャンマーの状況に応じた商品開発に向けたマーケティング活動、そして情報収集ですね。代理店との関係では、資金力や販売網、技術力はもちろんですが、しばらくして「ハングリー精神のあるリーダーがいること」がとても大事だと考えるようになりました。これから一緒に頑張って、大きくなろうとする時期ですから、貪欲さが必要になります。

 

ミャンマーの特殊な状況に合わせた商品開発も進めています。たとえば、政府の電力網が届かない無電化地域がまだまだ多いため、太陽光で発電して蓄電する照明器具「ソーラーストレージ」を開発しました。従来の太陽光を利用した照明では、一家だんらんの場を照らすには明るさが足りないので、明るくしました。携帯電話の充電もできるようにするなど、無電化地域のニーズを拾い上げた製品です。また、マンダレーなど乾期にとても高温になる地域の需要に合わせ、46度になっても正常に冷えるエアコンを開発しました。普通のエアコンは気温が高すぎると、コンプレッサーに負担がかかり、効率が下がってしまいます。この製品は室外機を大きくし、高温に対応できるようにした一方で、価格競争力も維持するものです。この狙いは当たり、ヒット商品になりました。

 

――ビジネスを開始して5年が経ち、どんな課題が浮かび上がっていますか。

 

そうですね。実は景気がものすごく悪化しています。冷蔵庫や洗濯機などの販売が大幅に落ちています。もともと家電は高価ですので景気に左右されやすいのですが、それだけでなくスーパーの消費財などの販売も落ちているようです。チャットの対米ドルレートが下落していますので、家電の小売店はチャット建ての価格を値上げせざるを得ないのもつらいところです。

 

まだまだ種まきの時期ですので、ブランディングに力を入れています。高級ドライヤーなどビューティ分野では、人気女性ブロガーのネイチーウーさんを起用したところ、大きな効果がありました。スマートフォンを持って「これと同じのが欲しい」という女性がたくさんお店に来て、驚きました。現在、選択と集中を進めています。基軸はエアコンですね。エアコンですと施工業者など「インストーラー」が商品の決定権を握っていることが多いので、彼らに対して講習会を行い、製品の良さを知ってもらう活動をしています。

 

また、ミャンマー日本商工会議所の理事として、日本側とミャンマー側がビジネス環境について協議をする「日緬共同イニシアチブ」の場で、家電分野の提言の取りまとめしています。例えば、ミャンマーでは多くの種類のコンセントの差込口がありますが、不便なだけでなく、これにより事故が起こることも多いのです。規格を統一するなどの提言を行い、ミャンマー人にも日本人にとっても、いい環境になればと思っています。(掲載日2018年8月17日)