「問題解決を仕事に」 ミャンマーの生の現場訪れる社会派ツアー NGOから起業家に転身した中原一就さん

 

ミャンマーでは、数々の課題が放置されたまま存在している。また、ミャンマー人も必ずしも関心を持たない。そんな問題意識から、ヤンゴンでビジネスを立ち上げたのが「テイントゥンティッサー」などを経営する中原一就さんだ。中原さんは、ミャンマーの農村地域を中心に、調味料として利用される八角を植える非政府組織(NGO)に勤務していたが、今年3月に独立して起業した。そのビジネスも、ヤンゴンの貧困地区のツアーなどユニークな事業が多い。どうしてヤンゴンでこうした事業を展開しているのか、中原さんに聞いた。
――中原さんは、ヤンゴン郊外の貧困地域の不法居住者を巡るツアーや、同じく貧困地域への米のドネーションツアーなどを企画していますね。どうしてそういった事業をしているのですか?

 

そうですね。このツアーは、社会の問題にもっと目を向けてほしいという思いから企画しました。最近、「社会の課題を解決したい」というエネルギッシュな人が増えてきていますが、そういう人でもそんなに社会問題そのものを知らないなと。それはもったいないことなので、そういうことを知って考えるきっかけになればと思っています。

 

これまでに、ヤンゴン郊外のタウンオッカラで不法占拠で暮らしているスクワッターと呼ばれる人たちを訪れるツアーですとか、田植えツアー、ゴミがどこから出ているのか調べるツアーなどを実施しています。また、日本の学生らが少数民族地域を調査するフィールドワークを企画することもあります。参加者は初めて知ることばかりですので、刺激を受けていろいろ考えてくれるようですね。まずは外国人を対象にしていますが、実績を積んでミャンマー人向けにも広げていきたいと思います。ゆくゆくは、学校の修学旅行のようなものを企画できるとよいですね。


中原一就(なかはら・かずなり)さん 

 

「テイントゥンティッサー」「アルバトロス・ネットワーク・ストラテジー」社長。1990年山口県生まれ。上智大学卒業後、農作業に従事したのち、ミャンマーのNGOに勤務。2018年3月に独立し起業した。

――どうして社会課題に注目する事業に携わるようになったのですか?

 

大学生のころ、知人が家庭の事情で突如住むところがなくなるということがありまして、しばらく私のアパートに泊めていたことがあるのです。そのことがきっかけでホームレス問題に関心を持ち、実際にホームレスの人たちと一緒にバーベキューをしたのです。そうする中で、人間はすぐにホームレスになるのではなく、離婚やらお金やらいろんな問題があって、そうなっていくのだと感じました。

 

その後2011年の東日本大震災などがあって農業が大切だと思い立ち、卒業後は就職せずに北海道で住み込みでジャガイモやホウレンソウを育てたり、牛の世話をしたりしていました。農産品の流通について知るため、千葉県の道の駅で働いていたこともあります。そうこうしているうちに、ミャンマーで八角を植える活動をしている医師の林健太郎さんに出会って、その活動に参加してミャンマーに来たのです。

 

ミャンマー来たあとは、少数民族地域ばかり回っていました。そのおかげで、地方のことがよくわかるようになりました。今では、大抵の民族のビジネスができる人には、たどっていきつくことができます。これまで、ミャンマーの農村部などで、社会の仕組みをよく知らないために損をしたり、何かをやろうとしても成功しない例を多く見てきました。多くの人にもっと社会を知って、問題解決の能力を身に着けてほしいと思います。

 

――新しいことを次々と始めていますね。

 

はい。いま2つの会社を経営しているのですが、合わせて13人のスタッフがいます。日本人のインターンの学生も来ていますね。ザガイン管区のカレーミョとヤンゴン(休業中で11月に再開)で日本語学校を運営しているのですが、マグウェ管区のマグウェ、チン州のティディムにもこの10月と11月に新設します。日本への送り出しが最終的なビジネスなのですが、講義では日本語だけでなく、社会の仕組みなども教えるようにしています。例えば、「食肉処理の仕事を仏教徒は嫌がりますが、誰がやっているのですか」などという問いを生徒にぶつけたりします。例えば、私が昔やっていた林業をたとえに、どれだけステークホルダーがいるかを考えてもいます。「木を切る人もいる、運ぶ人も、加工する人もいる、動物も影響を受ける」などと考えてもらう仕組みです。また、奨学金を支給している学生には、家計簿をつけるように義務付け、生活費を計算する習慣を身に着けてもらうことにしています。

 

別法人で、土地改良剤の販売も手掛けています。ミャンマーは畑の土地がやせてきているのですが、それは肥料や農薬の使い過ぎで、土壌に微生物がいなくなり、土が固くなっているからなのです。この商品を使うカチン州のリス族が生産したいちごなどの販売の支援もしています。農産物の商品化の一環として、近くインターンの学生が中心となって、ヤンゴン中心部のシュエゴンダインに和菓子の店を開きます。おはぎやいちご大福などを並べる予定です。ヤンゴンでは、ビジネスマンの営業用のお土産を調達するのに苦労しますから、需要はあると思っています。こうした事業を、ひとつひとつ形にして成功させたいですね。

 

【インタビューを終えて】

中原さんは行動力と交友関係の広さを武器に、ユニークな事業を立ち上げている。ほかの人が無理だと思うことでも、方法を探してどうにかしてきた経験がある。流行りのソーシャルベンチャーの中でも、理念先行型ではなく、現場に根付いたビジネスだと言える。このビジネスがどのような形で花開くのかが楽しみだ。(掲載日2018年10月11日)