「ミャンマー人材、現地にあった方法で定着を」 フォーバルミャンマー社長の松村健さん

 

テインセイン政権誕生後の2012年ごろから数年間続いた第2次ミャンマー進出ブームも一段落し、ヤンゴンで業務を始めた進出企業は、より実務的で複雑な問題に直面することになった。数多くのミャンマービジネスの課題の中でも、人材に関する悩みが駐在員の頭の大きな部分を占めているのは間違いない。この分野に詳しいコンサルタントでフォーバルミャンマー社長の松村健さんに聞いた。

 

――フォーバルは進出企業などに対するコンサルティングを提供していますね。進出ブームでヤンゴンに拠点を設けた企業が実際に操業を始め、様々な課題が浮き彫りになってきています。松村さんのところにはどんな相談が寄せられていますか。

 

大きく分けると我々の事業は進出のビフォーとアフターに分けられます。進出前は市場調査などのサービスですが、進出後のサービスは、研修や評価制度などの人材活性と、ITを使った業務革新が大きな柱です。ただ進出した企業の抱える悩みは何といっても人材ですね。「マネジャークラスが採れない」「育ててもすぐ辞めてしまう」と。


松村健(まつむら・けん)さん 

 

1961年福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、富士

銀行(現みずほ銀行)入行。買収合併(M&A)

のアドバイザーなどを務める。その後外資系金

融機関などを経て、2014年にフォーバルに移り

ヤンゴンに赴任。現在フォーバルミャンマー社長。

 

実際のところ、確かにマネジャークラスは非常に採用が難しく給与水準も上がってはいるのですが、以前のバブルのような急上昇は影を潜め、比較的穏やかな上昇傾向となっています。英語ができるマネジャークラスですと、月収800ドルから1,500ドル程度でしょうか。2014年から16年にかけて、マネジャークラスが払底して、欧米系の企業が強引なヘッドハンティングを仕掛けていたこともあり、とんでもないほど給与水準が上がった時期があります。しかし、今はラカイン州問題などもあり欧米系企業の新規の進出が少なく状況が変わりました。また、以前高給をとっていた時間が経つにつて人材もスキルが伴わないことがわかり、「この程度の能力でこの給与水準はおかしいのではないか」と評価されるようになってきました。短期間で転職を繰り返す「ジョブホッピング」も長期的にみると待遇が良くならないということも、ミャンマー人も感じるようになってきたのではないでしょうか。

 

――それでも、やはり優秀な人材が採れないという声は強いと思います。実際問題としてどうすればいいのでしょうか。

 

基本は育てるのがよいと思います。そこでネックになるのが定着率が低いということですが、これにはミャンマー特有の理由があるため、それを理解しなければいけません。例えば、ミャンマーは社会情勢の変化が激しく、長期的なビジョンが持ちづらい環境にあります。日本でも戦後すぐは生きるのに必死で、長期的な展望などなかった人が多かったのではないでしょうか。また、自分が目指すロールモデルが少ないというのも特徴です。一度、ミャンマーの人たちに尊敬する人を聞いていたことがあるのですが、6割くらいがアウンサンスーチー氏かアウンサン将軍でした。のこりのうち2割が両親で、あとは世界的なIT起業家などでした。身近に目指すべき存在がいないので将来像がイメージしづらいのです。そのため、成長を実感させてあげること、丁寧に夢やビジョンを持てるようにする刺激を与えることが必要だと思います。

 

また、本当は必要だけれどもミャンマーにはないものが多くありますので、それを企業が福利厚生として提供してあげることができれば、会社を離れようとは思わないはずです。例えば、健康保険です。ミャンマーでは国の健康保険制度が貧弱で、大病をした時に大変です。これを企業が本人や親族が病気の時に面倒を見る仕組みを作ってそれを社員が利用するようになれば、勤務を続ける大きな動機になります。

 

――人材の問題は、ミャンマーならではの問題が多くありますね。

 

私も当初は理解できないことが多く、わかってくるまでに2~3年はかかりました。例えば、ミャンマーで仕事をしていると、「つまらない嘘」をつく場面に出会います。どうしてそんなすぐわかる嘘をつくのかと不思議だったのですが、そのうち、ミャンマー人は相手を傷つけないように話すことや、相手を不機嫌にさせることがとてもストレスなのだとわかってきました。小さな嘘は相手を傷つけないための方便という場合もあるのです。タイで仕事をしていた人と話しても、タイ人が自分でリーダーシップをとって仕事ができるようになるまで3世代かかったと。ミャンマーの人材全体が変わっていくには時間がかかると思います。ただ、その一方で「教わったことがないので知らない」「経験がない」という場合が多いので、教えてあげる機会を作ることはとても大切ですね。

 

【インタビューを終えて】

取材が終わり事務所を立ち去ろうとしたところ、15人ほどの社員全員が一斉に起立し、声をそろえて「ありがとうございました」と声をかけてくれた。人材活性のコンサルティングを手掛けるだけあり、社内の教育には抜かりがなさそうだ。こうしたミャンマーの人材がまた新たな人材を生み出して、この国の発展を支える大きな土台を形作って行ってほしいと感じた瞬間だった。

(記載日2019年3月8日)