「月10万円粗利取れる事業はすべてやる」 不動産に教育…次々と新サービス打ち出すキューの小坂太郎さん

 

日本にはあるのに、ミャンマーにはないサービスが数多くある。そんな思いから、ミャンマーで次々とウェブサービスを生み出している日本の起業家がいる。ヤンゴンでキューを設立した同社最高経営責任者(CEO)小坂太郎さんだ。一方で、この国のインターネット環境が厳しいのも事実。小坂さんにフロンティアに挑戦する醍醐味を聞いた。

 

――不動産取引サイトなどや日本文化チャンネルなど数多くのユニークなウェブサービスをスタートさせています。どうしてそんなに多くのサービスを同時に手掛けているのですか。

 

はい、すでに9つのウェブサービスを立ち上げました。もともと、月に10万円くらいの粗利がでる事業であれば何でもやってみようということで、年間10個くらいのプロジェクトを始めるつもりでした。ミャンマー人向けのオンライントゥオフライン(O2O)事業を中心にしています。

 

2016年にヤンゴンで会社を立ち上げてまず始めたのは、チケット販売サービスです。日本の「チケットぴあ」のイメージですね。これは弊社のスタッフにパーティ好きな人がいたことから着想しました。非常に需要があり、十数店舗と提携して500~600枚を売ることができました。この時はしかし、利幅が薄い割には紙のチケットを使っていたためにオペレーションが煩雑でした。そこで、QRコードを使ったシステムを開発したのですが、それはうちのスタッフが十分に仕組みを理解することができなかったため、体制を確立するまでいったん休止することにしました。


小坂太郎(こさか・たろう)さん 

1974年、東京生まれ。日本で専門学校を卒業後に渡米し、大学でグラフィックデザインを学ぶ。米国留学中からホームページを制作し、帰国後の2003年にデザイン会社を立ち上げる。ウェブを中心に広告戦略などを手掛ける。2014年からヤンゴンで業務を開始、2016年にキューを立ち上げCEOに就任。現在24人の従業員を抱える。

この11月には、教育サービスの「アカデミャン」を実験的に始めています。これは、講師と生徒をマッチングさせるサービスで、教室となる場所もこちらで提供します。ミャンマー人は勉強熱心ですが、例えばコンピューター教室などは学費が高い割に必ずしもレベルが高くありません。その一方で専門性を持つミャンマー人の中には人に教えたいという思いがある人もいるので、その人にノウハウや場所を提供して、生徒を紹介することができれば、お互いの利益になります。まず、弊社が主催するIT教室から始め、外部の講師を活用したコースなどを増やしていきたいと思います。

 

また、不動産仲介サイトも新たに始めたのですが、これは仲介だけではなくて、日本の「レインズ」のようなデータベース化する仕組みを合わせて進めます。このほか今進めているのは、プレスリリース配信サービスの「ビープレス」ですね。ミャンマーで唯一のサービスです。メディアの担当者と直接面談してから配信します。いまコンタクトが取れているメディアで450か所あります。秋に行われたイベントでは180社にリリースし、実際に記事にもなっています。

 

――日本で会社を経営し、成功を収めていたと聞きます。どうしてわざわざミャンマーで起業することにしたのでしょうか。

 

初めてヤンゴンに来たのは、アメリカ留学前の1994年でした。実は父がミャンマーで投資をしていた関係で、誘われてヤンゴンに来ました。空港に到着し、外貨は兌換券に交換させられるわ、道路はぬかるんでいるわで印象が悪かったのです。しかし、次の日に現地の人に「ミンガラバー」って声をかけると本当に驚いた表情をしてくれるなど、ミャンマー人と交流するにつれ、なんていい人たちなんだと思いなおしました。

 

米国から帰ってきてから自分のデザイン会社を経営し、ヤンゴンに拠点を移す前には10人以上のスタッフを抱えていました。そんな中で2014年にまた父に誘われてミャンマーに来る機会がありました。そこで、ヤンゴンのダウンタウンを一日歩き回ったところ、「ああ、この国にはないものがあるな。自分ができることがたくさんある」と思ったのです。ただ家族もいるし難しいかなと考えていたですが、日本に帰って妻に話すと、なんと「ミャンマーおもしろそうじゃん」と言うのです。そこでまず、父の知人の会社を手伝うことにしました。ビジネスビザが有効な2か月余りヤンゴンに滞在し、また日本に数か月帰って仕事をする、という生活でした。知人の経営するホテルや金融会社の組織作りや、営業方針を策定などの仕事を無給でしていました。そして、2016年に家族とともにヤンゴンに拠点を構えて、自分の事業を始めることにしたのです。

 

――ミャンマーで矢継ぎ早にサービスを打ち出すのは苦労があったことと思います。

 

そうですね。何といっても、スタッフの定着の問題がありますね。例えば、デザインを教えても、覚えたころに会社を辞めてしまうケースもありました。また、ウェブサイトを途中まで作って退職してしまう人もいました。内部の体制を確立しつつ、現在進めているサービスを軌道に乗せていきたいと思います。

 

【インタビューを終えて】

今、ミャンマーでは、動画や通販、人材など様々なインターネット上の試みが誕生している。そのうち生き残るのはごく一部だと思われるが、何が当たるかわからない分野でもある。そのリスクと向き合い、手数を多くしてカバーしようとするのがアイデアマンの小坂さんの戦略だ。流行りの「多動力」を体現したような小坂さんだが、その分苦労も多いに違いない。試行錯誤の中から、将来のスタンダードとなるサービスが芽吹くことを期待したい。(掲載日2018年11月23日)