「ミャンマーのオタクにしかできない仕事がある」 ヤンゴンで漫画アシスタント請け負うアンドファンの門正仁さん

 

「ワンピース」「ナルト」といった日本の漫画やアニメが人気のミャンマー。有名コンテンツのみならず、日本でもあまり知られていないゲームなどのコスプレを楽しむ若者も出てきた。日本のポップカルチャーが人気がある一方で、その担い手は、ほかのアジアの国に比べ少ない。ミャンマーの伝統漫画は、英植民地時代から始まり100年余りの歴史があるものの、軍事政権時代の言論弾圧もあり、産業として成長せず、ほんの一握りの作家が書き続けているに過ぎない。そんな中で、日本の漫画などの加工を行うアシスタント業務をミャンマーにアウトソーシングする事業を立ち上げたのが、ITベンチャーのアンドファン取締役、門正仁さんだ。どうしてミャンマーで漫画なのか、門さんに聞いた。

 

――漫画コンテンツを加工する業務を始めたと聞きました。どうしてこの事業をヤンゴンでやろうと思ったのでしょうか。

 

はい、今年に入って事業を開始して、軌道に乗り始めました。


門正仁(かど・まさひと)さん1972年札幌市生まれ。法政大学卒業。メーカー勤務を経て、2015年にITベンチャーのアンドファンに参画、共同経営者になる。現在同社並びに現地法人の取締役。主にミャンマー事業を担当する。
この事業を説明しますと、例えば漫画が多言語化される場合にセリフなどを外国語に入れ替えるのですが、そのためには吹き出しに入っているセリフだけでなく、絵に重なっている「ドカーン」「ドキッ」といった文字も翻訳しないといけません。そうすると、ただ字を入れ替えるだけでなく、絵の一部を書き直さなくてはいけなくなります。また、もともと印刷された漫画をデジタル化するときに、コマ割りなど必要な修正する作業も発生します。また、漫画以外でも似たような作業があり、例えばもともと3D(立体)だったキャラクターを使って、平面のゲームカードにする場合などは、平面で見て美しいように細部を書き足さないといけません。この作業をするには、画像加工ソフトウェアの知識に加え、一定の画力が必要になるのです。こうした作業をミャンマー人のチームで請け負っています。

 

こうした作業は、漫画コンテンツがデジタル化していく流れの中でニーズが増えています。その一方でこの業界は昔から低賃金で、少子化が進む日本国内では人材確保が難しくなっています。このため海外にアウトソースする流れなのですが、中国やベトナムもすでに人件費が上がってきています。その意味ではミャンマーはまだ人件費もそれほど高くはないので、採算がとりやすいのです。

 

――台湾やタイに比べ、日本のポップカルチャーが浸透してからミャンマーはまだ日が浅いと思います。また、義務教育レベルで美術の授業がないなど不利な点もあるかと思います。ミャンマー人スタッフの技術レベルはいかがですか。

 

日本の漫画・アニメが好きなミャンマー人のオタクは非常に多いですね。私が知らないようなマニアックな作品をよく知っています。こうした仕事はミャンマーにはありませんでしたから、もちろんはじめは教えなくてはいけないのですが、結構いい仕事をします。以前、中国の業者を通じて同じようなアウトソーシングをしたことがあったのですが、文化的な特徴が強く出すぎていてうまくいきませんでした。中国の人に書いてもらうと、何となく水墨画っぽくなってしまうのですね。その点、ミャンマーのオタクたちは、ニュートラルにそのまま書いてくれるのでいいですね。

 

驚いたのは、ミャンマーのスタッフは勉強熱心で、インターネットでソフトウェアの使い方やイラストの描き方を自分で学んでいくのです。いまリーダーの社員は日本文化が好きで好きでたまらず、アニメと漫画で日本語をマスターしたような女性です。彼女はヤンゴンにある日本の政府機関で働いていたのですが、今の仕事をしないかと声をかけると、「私の趣味が仕事になるとは思ってもいなかった」と言って、すぱっと前の仕事を辞めてうちに来てくれました。オタクにはオタクにしかできない仕事がありますので、それを楽しんでやってもらえればと思っています。

 

現在、内部と外部合わせて6人体制で作業を進めています。技術的に向上してきており、有名アニメの関連ゲームの仕事なども受けられるようになりました。まだスピードは日本人の5割から6割といったところで、そこは改善の余地がありますね。顧客のニーズは非常に高いのですが、現在オペレーションをしっかり固める時期と考えていて、無理な拡大はしないつもりです。リーダーの社員が顧客からの要望を受けて、しっかりチームを回せるようになってから、人員を拡大していきたいと思います。

 

――ほかにも、日本のフィギュアやプラモデルなどオタク商品を取り扱っていますね。

 

実は、もともと私がプラモデル好きだということもあるのです。ガンダム世代でして、お店に並んでシャア専用ザクを買ったのをよく覚えています。大人になってから本格的にプラモ制作に取り組みまして、色を吹き付けるエアブラシを買って何か月もかけて作っていたのです。あるとき、子どもから「ガンダムのプラモデルって高く売れるらしいよ」と言われ、ネットオークションに出してみると、10万円とか20万円とかで売れたのでびっくりしました。フィギュアも集めていて、一時期は200~300体くらい持っていましたね。ヤンゴンではミャンマー人を通じて、プラモやフィギュアをネット通販で販売しています。プラモは開始以来数か月で40~50箱が売れています。7割がファンで3割がホビーショップなどの業者ですね。これはそんなに儲かるわけではないのですが、社員にビジネス感覚を持ってもらう人材育成の一環と考えています。価格設定なども、社員に考えさせています。

 

――今後はどのように事業を伸ばしていく予定でしょうか。

 

そうですね。この分野の人材育成に乗り出そうとしています。ミャンマーの職業訓練学校と連携して、漫画やアニメを含めた人材育成ができればと思っています。そしていつかは、独自のコンテンツを作りたいと思っています。自分たちだけでは難しいかもしれませんが、ヤンゴンには多くの仲間がいますので、協力すれば不可能ではないと考えています。

 

【インタビューを終えて】

確かに、ミャンマーのオタクたちの情熱はすさまじい。その漫画ファンの思いを、ぶつける場がいままでのミャンマーにはなかったということだ。そういう意味では、ミャンマーのオタクたちが、プロとして歩み始める道筋を作ったと言える。ミャンマー発の大ヒット漫画が出る日を心待ちにしたい。(掲載日2018年10月26日)