「演技は映画と漫画から学んだ」 アニメ好き高じて日本に留学した女優、ナン・トレーシーさん

 

日本に留学しているミャンマーの若手女優がいることを知っている日本人は少ないのではないか。ミャンマーのサスペンス映画の「ニャ(夜)」で一世を風靡して、森崎ウィンさんとも共演した、ナン・トレーシーさんだ。どうして日本に留学し、何を目指しているのかを聞いた。

 

――森崎ウィンさんと共演したテレビドラマ「マイドリーム・マイライフ」を観ました。その時よりもだいぶ日本語が上手になっていますね。どうして日本に留学しようと思ったのですか。

 

いえいえ、もう3年以上、日本にいますので。もともと私は日本のアニメが好きだったのです。小さいころに友達から「NARUTO」を紹介されてからのファンですね。日本の高校生のファッションも好きです。


ナン・トレーシーさん

 

1997年タウンジー生まれ、シャン族。高校在学中からモデルや俳優として活動、2017年公開の「ニャ(夜)」で正式デビュー。2015年から日本に留学し、専門学校で演技と音楽を学んでいる。4月にミャンマーに帰国し女優として活躍することを目指す。

それで、アニメの声優になりたかったので日本に留学することにしました。母は欧米に留学してほしいと希望していて日本留学に反対でした。そのため、母が留守のうちに、こっそり祖母に頼んで学費を出してもらい、手続きを終えてから母に報告したのです。

 

高校を卒業するころ、トゥーパインゾーウー監督の「ニャ」に出演しました。私がモデルの仕事をしていた関係で女優を探している監督に出会ったのです。脚本がしっかりしているサスペンス映画でした。私もそうですが、日本のサスペンス映画が好きで、監督もよく研究したと言います。初めての演技でしたが、監督と議論しながら役を作っていきました。もともと配役は決まっておらず、すべての女性の役をやってみて、最後に登場する主役の女性になりました。これがきっかけで女優を志すことにしたのです。

 

日本では、1年半の間日本語学校に通い、その後、東京ダンス&アクターズ専門学校に通い、演技と音楽を学んでいます。日本でも映画と漫画はよく見ています。これが最も演技の役に立っていると思います。中でも、園子温監督の映画が好きで、全部見ましたね。一番好きな日本映画は「告白」(中島哲也監督)です。

 

――日本とミャンマーの映画界を比べるとどう感じていますか。

 

そうですね。日本では台本を大変重視しますね。それはほかとは違う点だと思います。入念に読み込まないといけないので、慣れない日本語に苦労しました。また、日本では芸能事務所に入らないと、オーディションがなかなか受けられないので、がっかりしました。日本の映画監督からお声がけいただいたのですが、セクシーなシーンが多い作品だったので悩みました。ストーリーはよかったので出演したかったのですが、友達と相談して、それに出たらミャンマーに戻って来られなくなると思い、やめました。また、米国の作品に出るチャンスもあったのですが、興行ビザが取れず実現しなかったのです。

 

ミャンマーでは、役者が少ないのですが、オーディションなどのチャンスが少なく、コネや経験のある俳優ばかりが出演していますね。また、インディーズ系の映画制作者と、商業映画の制作者のコミュニティが隔絶していて、もっと一緒にやればいいのに、と思いますね。ただ今は変革期だと思いますので、そこでいい仕事がしたいと思います。

 

――4月に帰国するとのことですが、その後の希望を聞かせてください。また、女優として目指すものを教えてください。

 

そうですね。母の経営する宝石店の仕事を手伝いながら、女優として活動するつもりです。その一方で言葉の勉強もしたいですね。

 

女優としてはできれば、いい脚本の作品でじっくりと演技がしたいと思います。映画が好きなのですが、最近はテレビドラマが農村部などで人気になっているので、そういった作品でも経験が積みたいと思います。まだ経験のないロマンスにも挑戦していきたいですね。

 

【インタビューを終えて】

彼女を初めて見たのは、デビュー作の「ニャ」だった。若者同士が殺し合う、誰一人いい人の出てこないサスペンス映画だったが、復讐に燃える若い女性の役を見事に表現していた。実際に話を聞いてみると、好きなことを仕事にするという意思の強さを感じる。夢だけを語って努力をしない若者も多いミャンマーだが、トレーシーさんには地道な努力の積み重ねで一つずつ夢を実現しようとする姿勢があった。この若い才能のミャンマーでの活躍を期待したい。(掲載日2019年1月25日)