「自分が受けたかった教育をミャンマーで」 ヤンゴンで科学教室を始めた学生起業家の三橋咲さん

 

ミャンマーでは、長い軍事政権時代を経て教育が画一的になり、科学実験など体験的に学ぶ機会が少ないとされる。そんな中で、プログラミングを中心に科学を教える教室を立ち上げたのが、学生起業家の三橋咲さんら3人のヤンゴン在住ビジネスマンだ。ヤンゴンで子供向け教室を運営するTIAM(ティアム)社長の三橋さんに、どうしてヤンゴンで教育事業に乗り出したのかを聞いた。

 

――大学を休学してヤンゴンで働いていると聞きました。起業するまでの経緯を教えてください。

 

はい。現在、東京外国語大学の3年次を休学中です。ヤンゴンでは2017年からベンチャー企業のインターンで働いていました。そのインターンが終わって、学生のうちに経営を経験したいと思い、起業しようと調査を始めていました。会社を作るなら助けてくれるひとが多いところがいいなと思っており、先輩が多いヤンゴンでビジネスはないかと考えていたのです。

そうした中で、ITベンチャーの岩佐光平さんと、人材紹介会社の田村啓さんのふたりに教育で何か事業ができないかという話を聞いたのです。とりあえず、2018年5月にプログラミングのトライアル授業をやろうということになりました。その時はまだ、実際に自分が創業者になるかどうか決めていませんでしたが、授業を楽しんでいる子どもの様子を見て、やろうと決意したのです。3人で出資して、今年9月に法人化しました。

 

もともと「自由に生きたい」ということを思っており、そのために将来は①フリーランス②自由な社風な会社で働く③会社を経営する――の3つの道があるなと考えていたのです。それを大学中に一通りやってみようと思ったのです。デザインの専門学校に通って、フリーのグラフィックデザイナーとして仕事もしました。ヤンゴンでは、工芸品のデザインなどのビジネスをしようかと模索していた時期もありましたね。

 

――科学教室というと、何を教えているのですか。


三橋咲(みつはし・さき)さん1995年アルゼンチン生まれ。中学時代はパナマで過ごす。東京外国語大学スペイン語学科休学中。2018年9月にヤンゴン在住の日本人ビジネスマンらとともに教育ベンチャーのティアムを立ち上げ、社長に就任。
いわゆるSTEAM(科学、技術、工学、美術、数学)教育を提供しています。週1回3か月間が1学期で、3学期の9か月で一連の課程が終了します。具体的にはプログラミングを教えており、教育ソフトを使ってパズルゲームやアニメーションなどを作ることで、論理的な考え方や表現力を学びます。6歳から15歳が対象で、現在4クラスあります。現在のクラスはみな日本人向けで、15人が学んでいますが、英語で行うミャンマー人や外国人向けクラスを12月から開始する準備をしています。私たち2人のメンターが指導をするのですが、「こういう種類のゲームを作る」という課題はあるものの、教えるというより生徒が自由に作品を制作するのをサポートするイメージです。

 

生徒は本当にいろいろなゲームを作りますね。パズルを作りこむ人もいれば、敵のキャラクターを凝ったデザインにする子どももいます。夢中になってくれる子どもも多く、クラスが始まる20分も前から来て作業を始める子どもや、終わっても帰りたくないという生徒もいますね。保護者の方からも「うちの子が90分も集中するなんてほかにはなかった」という声もいただいています。この先は、3Dプリンタを使った作業や、ロボット作りなどの授業も行いたいと考えています。

 

――まだ大学の単位が残っていますが、将来はどうするのですか。

 

いったんは日本に戻り、大学を卒業したいと思っているのですが、その先は決めていません。ヤンゴンの事業を軌道に乗せて、卒業後に再び戻ってくることも考えてはいますが、まだ白紙ですね。自分に何らかの原体験がある問題を解決していくビジネスを、思いや熱を込めてやっていきたいと思っています。私は小中学校を通してあまり教育にいい思い出がないのですが、この事業を始めてから、自分が子どものころに受けたかった授業はこれだと思いました。そうした教育を、ミャンマーの人にも経験してもらいたいと思っています。

 

【インタビューを終えて】

ヤンゴンでは多くのユニークな起業家に出会う。三橋さんもそのひとりだ。自分では「計画性のないほう」だというが、自分の考えに従って着実に行動している。多くは自分の好奇心や向上心が動機となっているのだろう。ミャンマーの教育に改善が必要なことも明らかだ。この教育事業を成功させることで、自分自身の成長にも役立ててほしい。(掲載日2018年11月9日)