「グルメアプリで世界を変える」 ミャンマー最大の「ヤター」を立ち上げた市川俊介さん

 

 2011年の民政移管以降、急激に携帯電話が普及してインターネット環境が激変したミャンマー。そんな中で、生活に必要なスマートフォンアプリを本格展開する企業がでてきた。タクシー配車サービスの「グラブ」は広く使われているし、出前を注文するアプリも登場している。そんな黎明期のミャンマーのアプリ市場に、人工知能(AI)を利用したグルメアプリ「ヤター」で殴り込みをかけたのが、ワールド・ストリート・ミャンマー・ヤターの市川俊介・最高経営責任者(CEO)だ。どうしてミャンマーでグルメサイトなのか、その狙いを聞いた。

 

――ミャンマー最大のグルメアプリと聞いていますが、ヤターはどのようなサービスなのですか。

 

はい、2018年4月の開始以来5万5,000ダウンロードを記録していまして、これはミャンマーのグルメアプリの中では断トツで1位ですね。シンガポール系のグルメアプリのダウンロード数は1万余りと聞いています。現在登録されている店舗数は約3,000店です。

 

 

 

市川俊介(いちかわ・しゅんすけ)さん

 

1979年生まれ、東京都出身。俳優一家に生まれ、6歳で子役デビュー。大学在学中から俳優・ミュージシャンとして活動した。その後GMOインターネットに入社してアジアでの拠点立ち上げを担当。その後ワールド・ストリート・ミャンマー・ヤターを設立しCEOに就任、2018年4月にグルメアプリ「ヤター」のサービスを開始した。

アプリで飲食店を探して予約ができるほか、割引クーポンなどが手に入ります。フェイスブックと連動しているので、アプリのAIがフェイスブックの過去の書き込みや写真などを匿名の状態で分析して「この人はビールが好きだな」などと判断し、最適なおすすめを表示する機能もあります。

 

基本はユーザーが書き込むことで店舗の情報が増えていく仕組みですが、報酬をいただいているパートナーレストランは店舗側が自由にページを作ることができるようになっています。また、コンサルティングやメニュー撮影などのサービスも行います。しかし、こうした飲食店からの収入に頼るのではなく、ユーザーの消費行動などのビッグデータを利用したサービスやユーザー向けの新規サービスなどで収益源を多様化させるつもりです。

 

――若いころは芸能活動をしていたと聞きました。どうしてミャンマーのアプリビジネスに行きついたのですか。

 

よくご存じですね。実は両親ともに俳優でして、小さいころから子役としてテレビCMなどに出演していたのです。大学時代から俳優とミュージシャンとして活動する傍ら、バックパッカーで東南アジアなどを旅する生活をしていたのです。ビートルズが好きで、人種や国などに左右されない世界を作りたいと思っていました。しかし30歳の手前になると芸能活動の仕事が少なくなり、タイ料理店で働くことにしました。店長になりがむしゃらに働いたところ、売り上げを大幅にアップする結果が残せたのですが、先のことを考えて転職しました。「国境をなくすような仕事はなんだろう」と考えていたところ、インターネットの世界では新しい価値観が作れるのではないかと思って、何も知識がなかったのですがGMOインターネットに就職したのです。そこでベトナムやミャンマーなど東南アジア事業の立ち上げなどを経験しました。

 

そのうち「次の夢を追おう」と思い、なんのあてもないまま会社を辞めたのです。その後タイに移住して次のビジネスの計画を立てながら行き着いたのがヤターでした。人間の三大欲求のひとつである食に関するビジネスを模索したということもあります。また、ミャンマーではまだネットインフラが確立しておらず、我々がIT文化を作っていくことができると考えました。利益追求型のIT文化ではなく、いい文化を作ることで、自分たちにも世界が変えられると考えたのです。

 

――ミャンマーでは「アプリをダウンロードしたがらない」「運用に手間がかかる」などアプリビジネスにとって高いハードルがあるとも言われてきました。また、日本の「ぐるなび」が当初、人海戦術で顧客を開拓した例を見ても、かなりの人手が必要となりそうです。

 

そうですね。ダウンロードしたがらないという点については、我々の努力もあって最近は変わってきているとも思います。しかし、例えばアンドロイド端末ですと、グーグルプレイからダウンロードしない人が多いことや、中国系端末では中国のプラットフォームからダウンロードすることが多いなど、まだまだ困難な点はあります。

 

日本では昔のように人海戦術はしなくなりましたが、しかし今のミャンマーでは必要なことと思います。私たちは、こうした地道な営業活動と、AIを使った高度な機能を両立させることで、顧客を獲得したいと思っています。圧倒的な1位になったとは言っても、ビジネスが軌道に乗るためには数十万人のユーザー数が必要だと見込んでいます。4月にはマンダレー支店を開設して、営業部隊を設置しました。また、ユーザーの利便性を向上するため7月に大型のリニューアルを計画しています。つねに最前線の機能を開発するようにしており、ここは手を抜くことはできません。現在、17人の現地スタッフがいますが、離職率も低く、やる気を持ってやってくれています。スタッフときちんと議論をしながらミャンマーに根付いたサービスを作っていきたいと思います。

 

【インタビューを終えて】

グルメアプリのようなプラットフォームビジネスでは、トップシェアをとることが非常に重要とされる。その意味で2018年4月以降大きなシェアを獲得した同社は、第一段階では大きな成功を収めたといっていいだろう。今後のハードルは市川さんも言う通り数十万人のユーザーを獲得してグルメアプリのスタンダードとして認められるかどうかだ。今後も山あり谷ありだろが、この挑戦の行方を見守りたい。(掲載日2019年6月7日)