「投資のメリットを訴えればミャンマー政府もわかってくれる」 元商社マンでコンサルタント、オフィス・テディの山口哲さん

 

日本の投資家がこぞって進出したこの「ラストフロンティア」も、次第にビジネス環境の難しさが明らかになり、撤退する企業も少なくはない。その厳しい環境の中で、進出企業のアドバイスをするのが、オフィス・テディ代表でコンサルタントの山口哲さんだ。ミャンマーだけでなくアジア投資に詳しい山口さんに、ミャンマーの投資環境の現状を聞いた。
――最近のミャンマーへの投資の状況をどう思いますか。

 

足元でみますと、新規に進出する企業は激減しています。欧米企業はロヒンギャ問題で世間から批判を受けるため、慎重になっています。そこでチャンスであるはずの日本企業ですが、ひところのブームが終わり、視察に来る数も減っています。しかし、各種のアンケートをみますと依然として、潜在的に日本企業は、ミャンマーでの投資の拡大には積極的であることがわかります。

 

これには、多くの理由がありますが、根底に流れているのは昨今の米中貿易戦争の影響で、中国の製造拠点を東南アジア諸国連合(ASEAN)などに移す動きがあります。東南アジアで検討した場合、タイやベトナムは人件費も高く、失業率が低いため、労働力が確保できません。ラオスは人口が少ないことを考えると、現実的にカンボジアかミャンマーかという選択になります。そうした時に、フンセン政権が大幅な賃金引き上げにより月額の最低賃金が170ドルになったカンボジアに比べると、賃金は上がっているもののチャット相場も下がっているミャンマーは、まだ100ドルを切る水準で、比較的安いと言えます。


山口哲(やまぐち・てつ)さん1949年、福岡県博多市生まれ。早稲田大学卒業後、三井物産入社。木材など貿易に携わり、インドネシア法人の社長も務める。2012年にジェトロ・ヤンゴン事務所の投資アドバイザーとして来緬、2014年に独立してコンサルティング会社「オフィス・テディ」を設立して代表に就任。
――国民民主連盟(NLD)政権になってから2年半が経ち、任期の折り返し地点に来ています。ミャンマー経済の状況をどう見ていますか。

 

ミャンマーの中小企業には大きな不満がたまっています。新政権になっても、経済改革が進まず、相変わらず銀行などから資金調達が難しいままです。また、新政権になってからヤンゴンなどで建築工事が認められず、工事が大幅に遅れたため、その間に中小の建築関連業者の倒産が続きました。こうした経済の混乱には、地元のビジネスマンも困っていますね。

 

投資法や会社法の改正は、投資促進には追い風ではありますが、進出ブームが去った後ですからちょっとタイミングを逃したと言わざるを得ないでしょうね。

 

――山口さんは第二次ミャンマーブームと言われた2012年ごろからヤンゴンで活動していますね。

 

私は2012年にヤンゴンを訪れた時、この国の将来性を感じたので、ジェトロのヤンゴン事務所で仕事をすることにしました。そのとき、ミャンマーの市場としての成長に大きな可能性を感じました。そのころ、ミャンマーのひとり当たり国内総生産(GDP)は840ドル程度で、1,000ドルが目前でした。しかし、ヤンゴンの街をみると、それよりはずっと発展しているようでした。郊外に出ればオートバイがたくさん走っています。高級ホテルは100ドルでは泊まれませんでした。

 

私の持論ですが、ひとり当たりGDPが1,000ドルを超え、都市人口比率が3割を超すと、消費が一気に拡大するのです。ミャンマー全体は現在、1,000ドルを超え、ヤンゴンでは3,000ドルを超えているとみています。ミャンマーの都市人口比率は私は25%程度に来ているのではないかと思います。このことから、ミャンマーでは消費が急速に拡大する時期に来ています。例えば、スズキの新車が売れてきているもの、その一例だと思います。このところ、生産拠点というよりは、5,000万人の消費市場をめざして進出する企業が目立つのも、そうした流れの中にあると思います。

 

――ミャンマーでのビジネスは障害が多いという声が強いですね。進出企業はどのようなことに気をつければよいのでしょうか。

 

簡単にできないと思わないことですね。ミャンマーでは、多くの規制があってビジネスがしづらいと指摘されていますが、その投資がミャンマーのためになるとわかれば、政府の関係者も柔軟に対応してくれる例もあるのです。権限があるレベルの担当者に、その投資のミャンマー側のメリットをしっかりと説明すると、意外と理解して力になってくれることがあります。日本の会社は社内の稟議を通すために、できるのかできないのか事前にはっきりさせたがりますが、ミャンマーでは動いてみないとわからないことも多いのです。その点は、中小企業の経営者などは「とりあえず試してみようか」という判断ができるので、できることの幅が広がりますね。こうしたミャンマーの現状に合わせた柔軟な対応も必要だと思います。

 

【インタビューを終えて】

大手商社で、アジアの数多くの困難なビジネスを手掛けてきた山口さんは、ミャンマーでのビジネスの難しさを知り、その突破口についてもアドバイスしている。基本的な姿勢はまず実行することだ。あまたの苦難を乗り越えてきたベテランの経験が必要な企業は、これからもまだまだヤンゴンにやってくるに違いない。(掲載日2018年12月7日)