本気の趣味はビジネスになる ミャンマー初の地ビール「ブルブリット」作ったティンリンさん

 

 中間所得層が増えているミャンマーでは、これまでになかったライフスタイルを楽しみたいという消費者が出てきた。そうしたニーズには応えてきたのは、国外から輸入される高品質でスタイリッシュな製品だった。しかし、ミャンマー製品という形で新たな消費スタイルを提案しているのが、ミャンマー初のクラフトビール(地ビール)の「ブルブリット」を製造しているヤンゴン・クラフト・ブルワリーだ。社長のティンリンさんに、どうしてミャンマーでクラフトビール造りに挑戦したのか尋ねた。

 

――御社のビールには「ビルマ・ペールエール」や「ラングーン・ブロンド」など個性的な商品が多いですね。香りが高いのはクラフトビールの特徴でしょうか。

 

はい、ほかのビールと違い、加熱せずに酵母が生きたままなので、香りや味わいが深いのです。その代わり保存が難しく、冷蔵保存できるお店でないと販売することができないデリケートな商品でもあります。それでも現在工場の併設店や直営店のほか、バーやレストラン、スーパーマーケットなど60か所程度まで販路が広がりました。

 

 

ティンリンさん

 

1969年ヤンゴン生まれ。大学で医学を学んだのち、投資会社に勤務。その後シンガポールやフランスの大学院などでビジネスを学び、ミャンマーとシンガポールでビジネスを展開する。2013年にビール事業に乗り出し、ヤンゴン・クラフト・ブルワリー社長に就任。

現在9種類のビールを発売しています。おすすめはネバダ・ペールエールですね。そのほか、数か月ごとに新商品を期間限定で打ち出して直営店で提供し、人気が出ればそのまま正式に商品化することにしています。5月からは赤いドラゴンフルーツを使った「レッドドラゴン」を投入します。赤みのあるさわやかなビールですので、女性にも楽しんでいただけるかと思います。そのほか、「マンゴー」 「お茶」「噛みたばこ」など多くの種類のビールを試作しましたが、全部が販売に結び付くというわけではありません。試行錯誤を繰り返しています。

 

――ビール造りというのは大変な仕事ではないかと思いますが、どうしてこのビジネスを始めたのですか。

 

そうですね。実は私は昼間は別の事業をしておりまして、ビールビジネスは「夜の仕事」になります。200年代初めに私はシンガポールで働いていたのですが、そのころシンガポール初のクラフトビール「ブリュワークス」のお店に入り浸っていたのです。ミャンマー人の仲間と毎週のように飲み明かしては、仕事や政治、恋愛の話をしたのですが、決まって最後は「ミャンマーでクラフトビールを作ろう」という話になったのです。そして2013年に私が家族とともにヤンゴンに帰ってきたときに、その仲間が「今こそ実行するべきだ」と言い出しまして、それで本当に始めることになりました。もともとジョークだったのですが。

 

私はビールの飲み方には詳しかったのですが、作り方はわからなかったので、たくさんの本を集めたり、各国のクラフトビール工場を訪れたりして研究しました。しかしミャンマーでは酒造免許を取るのがとても難しいのですね。一回目の申請は却下されたので、①中小企業の振興になり雇用が生まれる②観光資源となり外貨収入が獲得できる③価格が高いので限られた人しか飲まず依存症などの弊害は少ない、という点を強調して、再トライしました。2015年度の末になって免許が取得できそうだったのですが、政権交代によって大臣が変わったため仕切り直しになりました。2016年の5月になってやっと免許が取れたのです。

 

2016年の12月に初めてのビールができました。予想以上に味わいが濃く、強いビールとなりましたがそれが個性的でよいと思い、2017年1月に醸造所併設のバーで販売を始めたのです。開始して2週間は誰ひとりとして客が来ず、スタッフでこの醸造したビールを飲みつくすには何日かかるだろうかと計算したほどです。しかし、ある時英国人のお客さんが来まして、大変気に入っていただいたようです。その次に友人と来ていただいて、その友人がブログで紹介していただいたようなのです。それから、いきなりたくさんの西洋人が醸造所に押し寄せるようになり、金曜などには100人近くのお客さんですし詰めになってしまったのです。その後、タイ大使館の近くに直営のレストランを設けまして、そこでも楽しんでいただけるようにしました。今では外国人の顧客は2割に過ぎず、8割はミャンマー人のお客さんですね。

 

――今後はこのビールをどう育てていくつもりですか。

 

創業5年で黒字化しようと計画していまして、まだ利益が出る水準ではありません。強力なブランド力をつけることで販売を拡大したいと思っています。我々の強みは個性的な商品を生み出せることですから、新商品を生み出して改良を重ね、よりよいものにしていきたいと思います。4か月前から缶タイプの生産を始めました。現在はドラフトビールの割合が多いのですが、そのうち缶がメインになるのではないでしょうか。将来的にはこの缶タイプを海外にも輸出したいと思っています。ミャンマーのビールをいろんな国の人に楽しんでほしいですね。

 

【インタビューを終えて】

ティンリンさんの話からは、次々と新しいクリエイティブなアイデアが浮かんでくる。それでいてそのアイデアについて角度から検討しており、ミャンマー人のビジネスマンには珍しいタイプだと感じる。こうしたミャンマー人起業家が新しいライフスタイルを切り開いていくのをみると、高揚感を感じる。今後の活躍に期待したい。(掲載日2019年5月10日)