「ミャンマー司法、すべて変えなくてはならない」 「政治犯6回」の人権派弁護士ロバート・サンアウンさん

ミャンマーの弁護士、ロバート・サンアウン氏と初めて名刺交換する人はみな、一様に驚く。「6回の元政治犯」と名刺にはっきりと刻まれているからだ。民主化運動に身を投じ、実務家として仲間を救うために弁護士となった。アウンサンスーチー国家顧問が実質的に率いる国民民主連盟(NLD)政権になっても、司法改革が停滞する現状をどうとらえているのかを聞いた。
――これまでミャンマーの民主化運動に参加し、6回の投獄経験があるということですね。簡単にどんな活動をしてきたのか教えてください。

 

はい。まず、学生になった1974年に、国連事務総長だったウ・タント氏の葬儀を巡る学生運動に参加して12月から翌2月まで収監されました。その後も、作家のタキン・コードーマイン氏の生誕100周年デモに参加するなどして3回収監されています。その中で、不当に逮捕されることや不公平な判決が相次いでいることに疑問を感じ、1981年に弁護士資格を取得したのです。その後1988年の民主化運動で逮捕されました。また、1993年にはキンニュン将軍の汚職疑惑を暴露したために、2012年まで弁護士資格をはく奪されてしまいました。そのほか1997年、2008年にも投獄されています。

 

現在は、通常の弁護士業務を行うことで資金を賄い、人権侵害などの事件であれば、無償で弁護を引き受けるようにしています。


ロバート・サンアウンさん

弁護士。1954年ヤンゴン生まれのイスラム教徒。当時のラングーン大学に入学後、学生運動に携わる。1981年に弁護士資格を取得するがその後はく奪され、テインセイン政権の2012年になり弁護士活動を再開。政治犯として6回の投獄経験がある。

――同じく人権派の弁護士で、NLD法律顧問として憲法改正の実務を担っていたコーニー氏は親友だったと聞きました。コーニー氏が2017年にヤンゴン国際空港で暗殺されてから、事件の公判では遺族側の代理人弁護士を務めていますね。主犯格とされる元軍人が逃亡していることもあり、事件の動機や背後関係が十分に明らかになっていないと指摘されています。

 

そうですね。コーニー氏の事件では、現在最高裁で争っています。現在4被告のうち2人が死刑となっていますが、そのほかの被告の量刑が軽いので厳罰に処すよう主張しています。この事件では、逃亡中の主犯格の元軍人と当時警備していた空港警察の幹部が国軍士官学校で同期の関係にあるなど、おかしな点が多くあります。個人的には、暗殺の目的は「いつでもお前を殺すことができるのだ」という新政権に対する脅しだと思っています。私も狙われるかもしれないので、ネピドーの最高裁へ行くときなどは、安全に気をつける必要があります。

 

――現在の司法制度は裁判所の独立性が低いと言われています。NLD政権になってからも、ロイター通信の記者が国家機密法違反罪で禁錮7年の有罪判決を受けたのちに、大統領の恩赦で釈放されるなどしたことが国際社会の批判を浴びました。何が問題なのでしょうか。

 

ミャンマーの司法には多くの問題があり、全面的に改革をしなくてはなりません。大きな問題のひとつは、不法な判決を出した裁判官を弾劾しないことですね。裁判官の問題とは言いたくないのですが、裁判官の給料が低いことも問題です。わいろによって生活費を賄うようになってしまっているのです。また、警察が違法な捜査をすることも問題です。さらに、軍が絡んだ事件などでは、明らかに軍の意向が判決に影響しています。直接的に指示するのかどうかはわかりませんが、裁判官も左遷されたり、地方に飛ばされたりすることを恐れています。

 

抜本的な改革が求められていますが、現在のNLDはほかの懸案に忙しく、司法改革に手が回っていません。2018年にインターネットでの中傷などを禁じる電気通信法66条d項が改正されたことは一定の前進と言えますが、ほかにも多くの表現の自由を制限する法律があるので、警察は政府批判をする市民を簡単に逮捕することができる状態が続いています。

 

次の総選挙でNLDが勝利すればいい影響があると思います。逆に改革が進まなければ、民衆が(法律に依らずに)自ら裁くような社会になりかねません。法律システムがしっかりしていなければ、海外企業の投資もやってきません。問題を解決するためには、軍の力を弱め、国民の権利を拡大するように憲法改正が必要です。また、最高裁判所の裁判官らを議会がきちんと審査して人事を行うことなどが求められています。

 

【インタビューを終えて】

ロバート氏の弁護士人生は敗北の連続だったに違いない。彼自身の言う通り裁判所は問題が多く、いくら証拠を示して主張しても裁判官に取り合ってもらえなかったことも少なくないだろう。その悔しさや問題意識が原動力になっているのだろうか、インタビューの合間にも公判資料に目を通すなど精力的に活動を続けている。今では大きな事件の法廷が終了すると、記者らが駆け寄って説明を求めるようになっている。ミャンマーの司法改革が進み、彼のような弁護士がその力を存分に発揮できる日が来ることを期待したい。。

(掲載日:2019年11月29日号)