「株式上場はガバナンス強化のため」  上場果たした「エバーフローリバー」会長のチョールインウーさん

物流企業として初めてヤンゴン証券取引所に上場した「エバーフローリバー・グループ(EFR)」。新型コロナウイルス感染拡大のために、上場が2か月遅れるなど困難にも直面した。会長としてこの新興企業を率いるチョールインウーさんに、上場にかける思いと今後の展開を聞いた。
――もともと3月に上場するはずだったのが、新型コロナウイルスの影響で5月に延期せざるをえなかった経緯がありました。その後株価は上場時の参考価格を上回る2,700チャット前後(約216円)で推移しています。

 

そうですね。上場を発表して記念式典の招待状も送ってしまった後に、政府から集会の禁止が発表され、やむなく延期しました。政府のトップレベルの人たちも招いて式典を行なおうと思っていたので、残念でした。ただ、あまり遅くなってしまうと上場審査をもう一度やり直さなくてはいけないことになるので5月に上場することにしたのです。上場する際には、ヤンゴン証取で簡単な式典を行いました。

 

コロナにもかかわらず、株価が2,700チャットというのは、とてもいい結果だと思います。業績面を見ても、コロナの影響はなんとかなる範囲だと思います。


チョールインウーさん

物流企業エバーフローリバー・グループ会長。1966年生まれ。1996年に創業して以来、通関業務から物流拠点の運営まで事業を拡大。日本の上組などとも提携した。2020年5月28日にヤンゴン証取に上場させた。

――ヤンゴン証取に物流企業が上場するのは初めてです。なぜ上場を目指したのですか。

 

1996年に20万チャット(現在のレートで約1万6,000円)の手持ちで創業したのですが、その時は家族経営のような形態でした。その後、だんだんと国際的なネットワークができて、日本の上組など海外の顧客が増え、事業が大きくなっていきました。ただ、そうすると、不正がないかなど会社の組織的なガバナンスが問われてくるようになったのです。

 

株式上場のほかにも、国連グローバル・コンパクトに参加して、各種のルールに沿った会社運営をしようとしていますが、これは上場をしなくても必要なことでした。しかし、それは簡単なことではなく、会社を組織的な経営に移行することは難しく、まだ道半ばです。

 

――上場後、国軍系企業のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)の関連会社と共同事業を行なっているとして批判されました。

 

そのことについては、きちんと説明したいと思います。先日、その記事を書いたマスコミとも話をしたのですが、記者らは説明を聞いて「申し訳なかった」と言っていました。この事業はヤンゴンの東部工業地区であるティラワと、西部の工業地区であるラインタヤーなどを内陸水運で結ぶ事業です。ヤンゴンの都心部の渋滞を避けて水路で物を運ぶことで、現在1コンテナあたり150~200ドルの物流コストを70~80ドルにできます。また、輸送時間も大幅に短縮できます。

 

その一方でヤンゴンでは土地が限られています。2年程探していたのですが、提携先が所有していた土地しかなかったのです。同社の担当者とはもちろん協力して事業を進めますが、将軍や大臣らは関係がありません。汚職もありませんし、すべて合法的に進めています。もし仮に、環境汚染などが見つかれば、すぐに事業を取りやめるつもりです。

 

これらの事業が実現できれば、ミャンマー人の生活コストを引き下げることができます。タイで3万チャット(約2,400円)でできる飲み会が、どうしてミャンマーでは7万チャット(約5,600円)もかかるのでしょうか。それはミャンマー人の生活が豊かなせいではなく、物流などのコストがかさんでいるからです。物流コストを引き下げることで、この問題を解決したいと思います。

 

――ヤンゴン―マンダレー間の鉄道輸送など、大規模なプロジェクトを進めていますね。先行投資が必要となる業種ですから、将来的には資金調達も必要になると思います。上場に際して株主に言いたいことはありますか。

 

現在、港であるヤンゴンや交通の要衝マンダレー、米の産地であるエヤワディ管区のパテイン、中国国境のムセなどで6つの国家規模のプロジェクトを進めています。インド国境にも土地を確保しています。

 

現在、我々は第1フェーズにいます。今のところ弊社は新株を発行しておらず、手持ち資金で第1フェーズを行ないます。そして、次の第2フェーズに入り、資金調達が必要ならその際に目論見書を作って投資を募りたいと思います。その時に実績を見てもらい、我々の事業計画に関心があれば、投資してください。

 

将来的な話ですが、アジア地域に展開することが弊社の夢です。上組など日本の会社はヤンゴンに支店がありますが、その逆は少ないですね。シンガポールやマレーシアに支店を作り、海外のビジネスマンと同等に商売ができるということを示したいと思います。

 

【インタビューを終えて】

家族経営から脱却し、組織的なガバナンスを導入する。これは、まだ多くの創業者が現役で残っているミャンマーの大企業にとって、共通した課題だろう。それを明確に強く打ち出したのが、チョールインウーさんだ。海外からミャンマーに進出する企業にとっても、地元の提携候補企業の経営が不透明で、パートナー探しに困るという話はよく聞く。いち早くそうした課題に取り組み上場を果たした同社の今後に期待したい

(掲載日:2020年7月24日号)