「障がい者ができることを示す必要がある」 ミャンマー障がい者連盟会長のアウンコミンさん

ミャンマーでは障がい者の社会的な地位が低く、教育などの権利が阻害されているという指摘が少なくない。そんな中で、目の不自由な立場から日本語を学び、支援活動のトップに立っているのがミャンマー障がい者連盟会長のアウンコミンさんだ。アウンコミンさんに、ミャンマーの障がい者の抱える課題について聞いた。
――アウンコミンさんは生まれながらにして目が不自由だったと聞きます。それでもとても日本語が流暢ですね。どうやって勉強したのですか。

 

私は生まれた時から弱視でした。母は教育熱心で常に「あなたは目が不自由なのだから、人一倍勉強しなくてはいけない。一人で生きていくことができるようにならなければいけない」と言って私を育てました。小学校と中学校は盲学校に通いましたが、バス通学でしたので家族の付き添いが必要でした。高校は、家庭教師をつけてもらい、自宅で勉強して試験の時だけ学校に通う形でした。そうして1996年に高校を卒業することができました。その年ミャンマーに目の不自由な人のための協会ができたのでその運動に参加したのです。同時に実家の幼稚園で働きながら大学で哲学を専攻しました。

 

そのうち、2000年から2001年にかけて、日本のダスキンが行なっているアジアの障がい者向けのプログラムの研修生に選ばれ、日本で勉強する機会がありました。日本語に加え、日本の障がい者支援の状況などを学びました。帰国してからヤンゴン外国語大学の大学院で日本語を学ぼうと考えたのですが、簡単にはいきませんでした。教員から「目が不自由なのにどうやって勉強しようというのか。教え方もわからないし、あなたには無理だ」と言われ、断られました。しかし、すでに日本語が話せることや、音声ソフトを使って学習ができることなどを伝えて、やっと入学が認められたのです。ミャンマーで障がい者が何かをやろうとすると、自分ができるということを示さないといけないのですね。


アウンコミンさん1975年ヤンゴン生まれ。弱視の視覚障がいがある。高校卒業後に障がい者支援活動に携わり、大学では哲学を学ぶ。ダスキンの障がい者支援事業の研修生として日本で学び、ヤンゴン外大の大学院でも日本語を学習した。現在ミャンマー障がい者連盟会長。
――現在はどのような活動をしているのですか

 

はい、私が会長を務めるミャンマー障がい者連盟は、2015年に施行された障がい者権利法で定めらえた団体です。選挙によって会長が選ばれ、新政権が発足した2016年3月に誕生しました。各種の障がい者団体との調整や、政府への提言、市民への啓もう活動などを行っています。

 

例えば、政府は今年の8月から、障がい者の登録カードを試験的に交付する事業を始めました。聴覚障がい者や知的障がい者は見ただけでは障がいの有無がわからないので、それをカードで証明することができます。また、今はあまり政府の障がい者への支援はないのですが、将来的に支援が拡充した場合に、誰が支援を受けられるのかを判断する役割も果たします。こうした施策に協力することも役割のひとつです。

 

――ミャンマーの障がい者はどんな問題に直面しているのですか。

 

2014年の調査によると、ミャンマーでは人口の4.6%が、視覚・聴覚・身体・知的のいずれかの障がい者に該当するとされています。しかし、統計に現れない障がい者を含めればもっと多いと考えています。決して少数の人の問題ではありません。

 

例えば教育の機会です。教員に障がい者受け入れるノウハウや考えがないため、入学を拒否される障がい者もいます。また、学校の施設が障がい者が使いづらい構造になっているため、政府にはバリアフリーに配慮した校舎を作るように提言しています。通学するには家族の協力も必要であるため、周囲の理解も重要になってきます。また、雇用の機会を作ることも大切です。諸外国にあるように、一定割合で障がい者の雇用を企業に義務づけることが重要です。障がい者福祉法ではこの義務について盛り込まれていますが、実際に何%にするかが決まっていないため、まだ実施されていない状況です。この議論を進める必要があります。

 

人の考え方も変わる必要がありますね。ミャンマーで広く信仰されている仏教では、自業自得という考え方があり、「障がいがあるのは前世の行いが悪いからだ」という、医学的観点からすると根拠のない考えを持つ人もいます。また、障がい者自身も自分の障がいについてよく理解していないケースもあります。自信を失ってしまう障がい者も少なくありません。この点で障がい者の能力開発も求められています。数多くの問題があるのですが、解決に向けた活動を続けていきたいと思います。

 

【インタビューを終えて】

アウンコミンさんの言葉には自信が溢れている。それは「あなたには無理だ」と言われ続けてきた状況を、努力で乗り越えてきた経験の積み重ねによるものなのだろう。そうした思いを少しでも多くの人にわかってほしいと願う気持ちが伝わる取材だった。

(掲載日:2019年11月15日号)