「日本の援助の『顔』を伝えたい」 国際開発ジャーナル編集長の玉懸光枝さん

ミャンマー最大の援助国である日本。その日本のミャンマー支援をつぶさに取材してきたのが、「国際開発ジャーナル」編集長の玉懸光枝さんだ。11月初旬に来日したアウンサンスーチー国家顧問兼外相に対し、日本の安倍晋三首相は今後5年で官民合わせ8,000億円を支援することを表明。ただ、実際にこの援助が実際にミャンマーの民主化や経済発展につながる形で活用されるのかは大きな課題だ。玉懸さんに、今後のミャンマー支援のあるべき姿を聞いた。
 

――日本は8,000億円の支援を打ち出しました。ただし使い道はまだ明確ではなく、これから詳細を詰める段階ですね。

 

8,000億円という数字には民間の投資も含まれており、実際の援助額ははっきりしませんが、少なくとも政府が民主化を進めるミャンマーをサポートするという姿勢を打ち出したことは意味のあることだと思います。その一方で、こういった数字は一人歩きしやすいものですので、この数字を達成するためのプロジェクトを積み上げるようになってしまっては、本末転倒だと思います。

 

今ミャンマーには、日本のみならず、国際機関や他の援助国も支援しています。また、内外の民間の投資も活発です。そうした中で、インフラ全体の整合性をとり、バランスを調整するのはただでさえ難しいところがあります。このような状態では、関係者がそれぞれの思惑でプロジェクトを進めて、ちぐはぐな街ができあがってしまうことになりかねません。

 

国際協力機構(JICA)も、全国の交通網やヤンゴンの都市計画についてマスタープランを提案していますが、最も大事なことは、ミャンマー政府が自ら、国をどういう方向に発展させるのか決定し、プロジェクトの優先順位をつけられるようになることです。2011年に民政移管、今春に国民民主連盟(NLD)政権が誕生したばかりで、ミャンマー政府の政策はまだ定まっていません。こうした政府が政策立案できるようになる能力開発(キャパシティ・ビルディング)は、政府の援助でしかできません。特に重要な分野です。

 


玉懸光枝(たまがけ・みつえ)さん 

開発や政府開発援助(ODA)に関する月刊の専門誌「国際開発ジャーナル」編集長。東京大学博士課程在学中に単身カンボジアに渡り、国際協力機構(JICA)の現地事務所などで働く。2013年からミャンマー支援に関する連載を執筆。ミャンマー現地取材は20回を数える。JICAプロジェクトの広報団員も務める。複数の大学で教鞭をとりながら、国際協力の人材育成にも携わる。

 ――日本が苦手だとされる「ルール作り戦略」が、ミャンマーでは注目されています。日本が法律や各種規制など、手続きの流れなどのルール作りに携わることで、日本企業の活動が有利になると期待されています。

 

意外に思うかも知れませんが、日本は法整備支援ではカンボジアやモンゴルなどで長い経験があります。また、欧米のように「コンサルタントが数カ月で条文だけ作っておしまい」ではなく、日本の専門家は政府の当局者と議論を重ね、当局者が自ら法制度を作るように促します。時間はかかりますが、こうした相手に寄り添う姿勢が評価され、ミャンマーでも初等教育のカリキュラム作成や、証券取引法、知的財産法などの国の根幹にかかわる部分のお手伝いができているのだと思います。

 

ただ、漠然とルール作りの支援をするというのも難しいところがありますので、例えば証券取引所の運営、鉄道の改修、ティラワ経済特区(SEZ)の開発という実際のプロジェクトを通じながら、日本の専門家とミャンマー当局が検討を重ねて必要なルールを作っていくという形が効果的なのではないでしょうか。

 

――特に鉄道分野での支援の現場を取材していますね。何を伝えたいと考えているのでしょうか。

 

そうですね。日本のミャンマー支援の歴史は古く、鉄道の現場にも信号機など多くの日本製の機械が残っています。古い日本製が現在でも使われている一方で、最近導入した中国製などが壊れて動かないケースも多く、ミャンマーの鉄道技術者が「やっぱり日本製だね」などと言っているのを聞くとうれしくなります。

 

また、現場の第一線で働いている人はとても情熱的で面白いのです。鉄道の保線のチームには、東北で作業をしていた技術者の人が多かったのですが、東北弁で指示を出しているのに、なぜかミャンマーの技術者は理解している、というような光景を目にして不思議な思いでした。

 

日本の多額の支援は知られていますが、実際にどんな人が現場で作業しているかは知られていません。守秘義務の問題もあり、現場の専門家がその活動をフェイスブックに投稿するなどということもほとんど行われていません。こうした現場の人の声を取材して拾い上げたいと思っています。また、これから国際協力を志す若い学生にも、「国際協力は、国連か外務省かJICAでしかできない」というのではなく、開発コンサルタントや技術者、NGOなど多くの関り方があるのだと知ってほしいと思います。

 

今までは、日本語での媒体で情報発信することが多かったのですが、これからはミャンマー人に対しての情報発信も強化していきたいと思います。現場で頑張っている日本の人たちを紹介し、日本の援助に携わる人の顔がわかる形で伝えていきたいと思います。

 

【インタビューを終えて】

日本のミャンマー支援は、戦後間もなくのバルーチャン水力発電所の支援にさかのぼる。その後、欧米が人権問題を理由に経済制裁を強化した際にも、JICAはミャンマー事務所を死守した経緯がある。ただ、こうしたことは、日本人にもミャンマー人にも十分に知られているとは言えない。また、ミャンマーにはティラワSEZの住民移転問題がネガティブに報道されるなど、援助による大型開発に懸念の声も出ている。こうした中で、丁寧な現場の取材から日本のODAをみつめ、チェックするとともに応援もする玉懸さんの姿勢は貴重なものと言えるだろう。(掲載日 2016年11月18日)