ユーチューブ手本にファンタジー漫画創作 ミャンマー現代漫画の旗手、ブラッシュアタックさん
ミャンマーの漫画は100年の歴史を持つ。しかし長い軍事政権の検閲と経済的な孤立の中で、漫画家が細々と風刺漫画やギャグ漫画を創作を続けてきたのが実情だった。2011年の民政移管を機に海外の情報が一気に流入し、表現の規制緩和も進んだため、漫画界も若い才能が溢れるようになった。今では、日本の漫画などをもとに現代的な作風のアクション漫画も増えている。そのリーダー格なのが、漫画「アマロン(Amalon)」を執筆するブラッシュアタックさんだ。ミャンマーで漫画家になるということはどういうことかを尋ねた。 | |
――自宅のスタジオにお邪魔しますと、初音ミクやガンダムなどおびただしい数のフィギュアがありますね。そもそもどうして漫画家の道に進んだのですか。
はい。このフィギュアは私の想像力の源泉です。ミャンマーでは公式フィギュアがあまり手に入らないので、日本から取り寄せたものです。そのほか、アイデアを考えるために、街を歩いて写真を撮ったり、武器を取り寄せて実物からイメージを膨らませたりということをしています。私は小さいころから絵を描くのが好きで、教科書の裏などによく落書きをしていたのです。初めて見た日本のアニメは、中学校に入るころ衛星放送のインドネシアのチャンネルで流れたセーラームーンでした。インドネシア語吹替でしたので意味は分からず、映像を見ていただけなのですが、ミャンマーの漫画とは目の輝きなどの表現が全く違い、驚きました。そこから日本風の絵の描き方を練習したのです。初めて書いたストーリー漫画は、DVDで観たポケットモンスターのアニメから着想した物語です。これをクラスメイトに見せたところ、とても喜んでくれて、順繰りに貸して読んでもらうようになりました。 |
![]() ブラッシュアタックさん漫画家・コンセプトアーティスト。1990年、ヤンゴン生まれ。通信制大学に在学中からグラフィックデザイナーや漫画家として活動。代表作にゲーム空間での戦いを描くファンタジー漫画「アマロン」。 |
ミャンマーには絵画の学校はありましたが、漫画の描き方を習う学校はなかったので、漫画の描き方はインターネット、特にユーチューブの動画から学びました。ユーチューブで紹介されている技術を習得するため、何度もまねて書いたものです。今ではその技術を若手に教えるようになっているのですが、当時は独学しか方法がありませんでした。大学は通信制の学校に入り、在学中から漫画を描く傍らグラフィックデザインの仕事をしてお金を稼いでいました。卒業後もそのままフリーランスとして働きましたが、現在はグラフィックデザインはせず、漫画がメインです。そのほか、ゲームのデザインを考えるコンセプトアーティストとしても活動しています。
――アマロンというファンタジー作品がインターネットのウェブトゥーンで連載中です。
これはゲームの中の仮想空間で、主人公の女の子らが戦う物語です。2015年に創刊された「オタクズ・ダイジェスト」という雑誌に掲載したのが始まりです。基本は同じなのですが、今書いているのと当初の作品とはだいぶ作風が違っています。設定は「ソードアート・オンライン」や「ログ・ホライズン 」などから着想しました。アメコミも好きで、私の作品はミャンマー・日本・アメリカのミックスですね。アマロンはファンタジーですが、「ゲームばかりやるのではなくバランスよく生活を」というような教訓も含んでいます。インターネットの漫画サイトで現在5話まで公開中です。12話まではすでに完成しており、ストーリーだけですと200話くらいまであります。順次公開していく予定です。実際の収入は、キャラクターグッズの販売によるところが大きいですね。主人公のスイリンのTシャツなどをフェイスブックで販売しています。
実は、2010年ごろにゾンビ物の「スプレッド」をフェイスブックで公開して、好評だったので出版しようと思ったのですが、当時は検閲がありました。ミャンマー全土が危機に陥ったり、手や足が切断されたりする漫画を出版することができなかったのです。これもいつか形にしたいと思っています。
――現在のミャンマー漫画界をどう捉えていますか。
ミャンマーの社会は変化がとても激しいですね。ちょっと前はインターネットに接続することすら大変だったのに、今はもうみんながスマホで動画を見るようになりました。そんな中で、紙の漫画を読む人が減って、漫画家は原稿を買ってもらうことが難しくなっていますね。ミャンマーで漫画家として食べていくのは大変で、親からも「そんな仕事は儲からないからやめなさい」という圧力がかかる若い作家も少なくありません。漫画を描くのをやめてしまった友人もいます。しかし、グラフィックデザインを主な収入源としながら漫画を描くなど、いろいろ方法があることも事実なので、若い作家には頑張って書き続けてほしいと思います。
【インタビューを終えて】 漫画家に限らず、ミャンマーのクリエイターの中には正規の専門教育やアシスタントの経験がなく、見様見真似で技術を習得したという人が少なくない。ブラッシュアタックさんもそのひとりだ。好きだという情熱をパワーに変えて、専門性を突き詰めてきたのだ。長い軍事政権の時代をばねにするかのように世の中に飛び出てきた若いクリエイターたちの、今後の活躍に期待したい。 (掲載日:2019年10月4日号)
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