日本人上司への思いを胸に独立、ブランディングで異彩 マーケティング専門家のアンディ・アウンさん

ミャンマーでは営業の経験がある人材は多いが、マーケティング戦略を組み立てられる専門家は少ない。そうした中で今、業界関係者から注目されているのがザ・ビート・イベント・マーケティングコミュニケーション創業者でマーケティングアドバイザーのアンディ・アウンさんだ。キリンホールディングス傘下のミャンマーブルワリーなどで経験を積んで独立。マーケティングの専門家として、商品ブランディングなどを手掛けている。アンディさんに、現在のミャンマーの消費者へ響くマーケティング手法について尋ねた。

 

――アンディさんはマーケティング専門家ということですが、実際にはどのようなアドバイスをしているのですか。

はい、マーケティングコミュニケーションが専門です。例として、あるエンターテイメント企業のブランド立て直しについてお話ししましょう。その会社はかつては強いブランド力を持っていたのですが、この2年ほど人気がなくなり、ビジネスが立ち行かなくなっていたのです。

 

まず私が行ったのは、顧客層の分析でした。3~4か月かけて調査を行い、従来の顧客ターゲットが誤っているという結論に達しました。ミャンマーの消費者はとても変化が速いので、経営者はその動きについて行けていませんでした。

 

次に新しい想定顧客層向けにプロモーションを行うのですが、予算がないということで、協賛企業を募ってコラボイベントを開催するとともに、フェイスブックなどを積極的に活用する手法を取りました。また、俳優やモデル、ジャーナリストなどのインフルエンサーに働きかけました。一方で店舗を改装して、雰囲気を一新しました。こうした手法が奏功して人気が回復したのですが、そうすると、なんとその経営者はその事業を高値で売却したのです。頭がいいですよね。


アンディ・アウンさん

 

1981年生まれ、ヤンゴン出身。シンガポールで飲食業やイベント運営などを経験したほか、航空会社の客室乗務員を務めるなど多様なキャリアを持つ。2016年にミャンマーブルワリーを退職して独立、マーケティング支援会社「ザ・ビート・イベント・マーケティングコミュニケーション」を創業。飲食店を経営する傍ら、イベントやラジオの司会など幅広く活動する。

――最近「ザ・ビート」というバーをオープンしましたね。この店には外国人も訪れる一方で、仕事ができそうなミャンマー人ビジネスマンに会うことが多いですね。

 

シンガポールで飲食の仕事をしていた時、2つの夢がありました。1つは飲食店を持つこと、もう1つがマーケティング支援会社を作ることでした。その2つがいま実現しています。「ザ・ビート」は、事業化の前に2年ほど検討を重ねました。ターゲットは若者というより、エグゼクティブレベルに設定しています。仕事を持つ人がリラックスできる場を提供したいと考えています、若者の関心は移り行くので、興味をひき続けるためにはこまめにイベントを打つことが必要でコストがかかります。私が億万長者なら若者をターゲットにできますが、そうではなくては生き残れません。その点、エグゼクティブは安定顧客になってもらえます。

 

――ミャンマーの消費者には、どのような商品が受け入れられるのでしょうか。

 

私は今のミャンマーでは、シンプルで魅力のある商品・サービスが良いと思っています。シンプルな商品を、しっかりとしたマーケティング戦略で売るのが最良です。多くの企業は、目新しい商品を打ち出そうとしますが、発売当初は革新的で話題となる商品だとしても、今のミャンマーでは2~3か月もすればもっと新しい商品が登場して、陳腐化してしまいます。また、似たような商品も現れ、競争が激化します。その中で商品力を維持するためには、商品の改良や宣伝が必要になり、大きなコストとなります。

 

――イベントのMCやラジオの司会者としても活躍していますね。

 

月に10本ほどのイベントに出ています。毎回少なくとも50人の聴衆に話す機会があります。そうすると、名刺交換をしたり、ちょっと私の店について話すだけで、合計で月に500人の潜在顧客に働きかけることができることになります。モデルや俳優らセレブリティと知り合う機会も多くあります。ミャンマーでは、こうした消費者に尊敬されているインフルエンサーの影響力が大きいですね。人脈も重要になってきます。

 

――キリンホールディングス傘下のミャンマーブルワリーでキャリアを積んでいます。

 

私は、それ以前もマーケティング支援の仕事をしていましたが、顧客にあたる企業側で一度働いてみたいと思っていたのです。ミャンマーブルワリーの上司だった日本人副社長からは、本当に勉強させてもらいました。上司は一日3時間しか睡眠をとらず、一心不乱に働いていました。そのころ私は、企業の社会的責任(CSR)活動の担当をしていました。私はイベント運営やPR活動が得意でしたが、普通はこうした活動をするときには、外部のPR会社を使うのです。しかし、私と上司は「PR会社に頼めば、せっかくのCSR予算のうち、現場に回る金額が減ってしまう」と考え、私が自ら行うことにしました。マスコミへの連絡やイベント運営など大変でしたが、なんとかやり抜きました。私はそのころ、土日には外部の音楽イベントなどで司会の仕事をしていました。そのイベントで、献血などの活動への協力を呼びかけると、歌手や俳優などセレブ達が協力してくれ、とても盛り上がりました。上司も私の社外での活動に理解を示してくれました。

 

そして昨年12月、その上司が異動で日本に戻ったまさに同じ日に、私はミャンマーブルワリーを退職しました。その上司がいなくなった以上、私がここで学ぶことはないと思ったからでした。彼のような人に会えたことは私の財産ですね。

 

【インタビューを終えて】

話を聞いていくと、次から次へと事例が飛び出す。航空会社の客室乗務員、顧客サービスのインストラクターなど多様な経験に裏打ちされた引き出しの多さは、聞く人を飽きさせない。ミャンマーでは、マーケティングの専門家が少ないと指摘されるが、こうした有能で経験豊かな人材は頭角を現してきている。こうした人材が、今後のミャンマーのマーケティングの光景をどう変えていくのか楽しみだ。(掲載日2017年6月9日)