「もし言葉なく抱きしめたら」 思い込め作詞・作曲 ミャンマー語の新曲「MOSHIMO」歌う平原綾香さん

 

長い軍事政権が終わり、表現の自由が拡大して音楽や映画が楽しめるようになったミャンマー。海外から一気にエンターテインメントが流れ込み、消費者に魅力を訴えている。そんな中で、シンガーソングライターの平原綾香さんと森崎ウィンさんが歌うミャンマー語の新曲「MOSHIMO(もしも、ミャンマー語原題:デゲロ)」がミャンマーでリリースとなった。平原さんが作詞・作曲したという力作だ。ヤンゴンで開催された「Jシリーズ・フェスティバルinミャンマー」のステージを終えた平原さんに、その思いを聞いた。

 

――平原さんは以前からたびたびミャンマーのステージに立っていて、今回が3回目ですね。MOSHIMOは森崎ウィンさんの出演するミャンマードラマ「ハウス・ウィズ・ドリームス」の主題歌になりますね。曲も歌詞も手掛けているという大変難しい仕事だったかと思います。

 

はい。(2016年にヤンゴンで開催された)ジャパン・ミャンマー・プエドーで、ニーニーキンゾーさんとデュエットしました。


平原綾香(ひらはら・あやか)さんシンガーソングライター。2003年に「Jupiter(ジュピター)」でデビュー。2017年に初めてミャンマーのイベントに出場、来緬は今回で3回目になる。2015年に「平原綾香Jupiter基金」を設立し慈善活動に乗り出す。
ミャンマー語は難しかったのですが、とても響きが良くて、短いセンテンスですが、頑張って歌ったのです。でもその時には、今回のような全編ミャンマー語の曲を歌うようになるとは想像していませんでした。デビューして16年、いろんな国で歌いましたが、現地でここまで新しい言葉を覚えたことはありませんでしたね。

 

ドラマの主題歌を書きおろしてほしいというオファーをいただいて、脚本や大まかなあらすじを読んだら、すごく面白くて、今後どうなるんだろうというわくわく感があったのです。あることがきっかけで家族がばらばらになり、また一つになるという笑いも涙もあるいいドラマでした。そのときに感じたのは、言葉のすれ違いで、離れ離れになったり争いが起きたりしてしまうことがあるということでした。ただ、そこで言葉がなくて、抱きしめあったら、一発で解決することもあるのではないかと思ったのですね。自分もそういう経験がありましたから。

 

それで、言葉がなければ、歴史がなければ、国境がなければどれだけ一つになれるのだろう、という思いを日本語で書きました。それを訳して、ミャンマーの作詞家の方がとてもいいミャンマー語の歌詞にしてくれたのです。私の思いがそのままそっくり伝わるように書いていただいていて、ミャンマーの方からも「いい歌詞に仕上げてくれたよ」と言ってもらっているので、幸せです。

 

――森崎ウィンさんとともに歌う楽曲は、ミャンマー国内向けに配信が始まりました。ミャンマー語の歌詞を歌うのは並大抵のことではないと思います。

 

ミャンマー語で歌うからには、ちゃんと意味を伝えたいのです。また、デュエットで歌うのはソロとは違う難しさがあります。母国語でも大変なのに、全編ミャンマー語でできるだろうかと言う思いがずっとありました。ウィン君に頼りながら、カタカナで覚えていったのです。でもカタカナだけで覚えるのが大変で、「ピョウン」と「ミャー」の部分に猫が跳んでいる絵を描くようにして覚えました。間違えずに歌えたのでうれしかったです。いつかミャンマー語で話ができる日が来ればいいなと思います。

 

――2月にもまたヤンゴンでこの曲を歌う機会がありますね。気持ちを聞かせてください。

 

はい、2月9日のジャパン・ミャンマー・プエドーでまたウィン君と一緒に歌います。今度は、1番をミャンマー語で、2番を日本語で歌うということも考えています。ミャンマー語では「デゲーロー」、日本語では「もーしもー」という部分をお客さんに歌ってもらうと、とてもいい歌になると思って、それを夢見ています。

 

「平原綾香Jupiter(ジュピター)基金」を2015年に立ち上げたのですが、2月19日に日本でチャリティコンサートを行います。そこにはウィン君もゲストで来てくれることになりました。そして、その寄付先をヤンゴンの「ドリームトレイン」という施設に決めたのです。ミャンマーが素晴らしい国だということを、このコンサートでも改めて伝えたいと思います。日本の人たちにも「デゲーロー」と歌ってほしいですね。このふたつを成功させるために頑張ります。

 

【インタビューを終えて】

2016年に初めて平原さんが仕事でミャンマーを訪れた時には、この国は彼女にとって未知の国だっただろう。それからステージを重ね、楽曲をつくり、ミャンマーでリリースするまでになった。この国との縁を大切にはぐくんできた彼女の取り組み方は、「彼女の思い入れは半端ない。本気だ」と周囲が驚くほどのものだ。彼女のその思いはこれからも、ミャンマーのファンを魅了していくに違いない。(掲載日2020年1月24日)