ミャンマー企業の「守護神」に 証券マンからコンサル起業した後藤信介さん

 日本の支援で今年3月から株式の売買が始まったヤンゴン証券取引所。現在3つの銘柄が上場しているが、その立役者の一人、元大和証券の後藤信介さんが9月、ヤンゴンで経営コンサルティング会社「トラストベンチャーパートナーズ」を起業した。ミャンマー企業を中心にコンサルティングを行うという。エリート証券マンの座を投げ打ち、あえて資金力のない地元企業を相手にする後藤さんに、その狙いを聞いた。
――トラストベンチャーパートナーズは、ミャンマー企業を主な顧客とすると聞いています。どうしてそのようなスタンスをとろうとしているのですか。

 

現状では、ミャンマー企業側に立ってアドバイスをしている人が誰もいないのです。外資系企業が地元企業を買収したり、投資したりする場合、通常ですと「バイサイド(買い手側)」と「セルサイド(売り手側)」の双方にコンサルタントがつき、交渉を行います。しかし、ミャンマー企業は資金力がないので、高い国際的コンサルティングファームを使うことができません。そうすると、社内に外資系のコンサルタントと交渉ができる人材を抱えているミャンマー企業しか、外資の提携相手になりえません。交渉をしようにも、話が通じないからです。このため、大財閥などわずかな数の企業に投資が集中してしまいます。

 

これは外資にとっても困る話です。本当は食品会社なら、食品関係のミャンマー企業と提携したいのに、話が通じる人がいないので断念せざるを得ないことになります。一方で、ミャンマー企業にとっても、M&A(合併・買収)などの際には、買い手は安く買おうとするのは当然ですから、売り手側のアドバイザーがいないと価格交渉で不利になってしまいます。ミャンマー企業に寄り添う存在が必要なのです。


後藤信介(ごとう・しんすけ)さん 

トラストベンチャーパートナーズ・グループ代表。2002年、大和証券エスエムビーシー(現大和証券)入社。ミャンマーで大和証券子会社のコンサルティング会社を設立した経験がある。名古屋大卒、ハーバードビジネススクールのエグゼクティブ向けプログラム「PLD」を修了。

 初めてわずかの間ですが、本当にブルーオーシャン市場で、思いのほかお声掛けをいただいています。バイサイドの国際的コンサルティングファームにも関心を持っていただいています。また、ミャンマー企業も以前と比べ、コンサルを必要とする深刻度が高まっているのを感じます。国が開いていくのに、財務や会計などをしっかりしないと、外資の投資が受けられないという危機感が高まっています。

 

――後藤さんは大和証券の社員として、子会社のコンサルティング会社をミャンマーで立ち上げましたが、清算する結果になりましたね。大和証券がミャンマーで証券取引所や証券会社など幅広い事業を手掛けることに批判を受け、そのあおりでコンサルティング事業から撤退したと聞いています。

 

会社の決定ですから、それについて批判するつもりはありません。しかし、私が目指すミャンマー企業側に立つコンサルティングは、外資系企業では無理なのです。ミャンマー企業のコンサルティングに対する需要はあるのですが、問題は価格です。外国人社員にひとり3,000万円も4,000万円もかかる外資系コンサルティングファームでは、ミャンマー企業に手が届く価格にすることは不可能です。

 

前の会社を清算したとき、私は経営者としてミャンマー人社員にひとりひとりに解雇を言い渡さなければいけませんでした。私が自ら採用した社員ですから、まさに断腸の思いでした。解雇にあたり、大和証券系の証券会社にポストを用意していたのですが、なんと社員は「後藤さんと一緒に仕事ができないなら行かない」といって、全員再就職を断ったのです。このことは、私が5月に日本に帰任してからも、心に残っていました。

 

日本での新しい部署はやりがいはあったのですが、どうにも気分が乗りませんでした。それで迷惑がかからないうちに辞めようと思いました。辞表を出してから再度ミャンマーを訪れ、昔の同僚と話をする中で、自分を必要としてくれていることが分かり、この仲間たちと事業を始めることにしたのです。この仲間は、ミャンマーの資本市場の創設メンバーと言って過言ではありません。これまで上場した企業のすべてに関わっています。このスタッフと仕事ができることが大きな強みとなっています。

 

――3月から取引が始まったヤンゴン証券取引所の株価が振るいません。

 

証券会社の育成が重要です。今はどこの証券会社も赤字なのではないでしょうか。売買が増えないと証券会社は手数料を稼げません。この停滞した状況が長く続くと、証券会社が顧客サービスに力をいれなくなる可能性があります。行政が業界を育成していかないといけません。

 

ただ、長期的には楽観視しています。この国にはビジネスチャンスは多いので資金調達の需要は旺盛ですし、投資したいという資金はミャンマー国内にもたくさんあります。5~10年で数十社から100社が上場するのではないでしょうか。足元をみますと、情報公開などの準備ができている企業が少ないので少し時間がかかるかも知れません。(上場候補会社として)発表された6社のうち、ファースト・ミャンマー・インベストメント(FMI)、ミャンマー・ティラワSEZホールディングス(MTSH)、ミャンマー市民銀行(MCB)の3社が上場した形ですが、残りは時間がかかるでしょうね。

 

――今後のミャンマー経済をどう見ていますか。

 

私は楽観的に見ています。今後20年~30年のスパンでは、7~8%の成長は続くのでしょう。一方で、もちろん、チャットは継続的に下落傾向でしょうし、インフレ率も高く推移するのでしょう。そうしたリスクを含みながらも、経済は回っていくのだと思います。今後1年程度で、ミャンマーには米国の制裁解除、会社法や投資法の改正など、大きな変化が訪れます。外国企業の投資意欲が高まるのは間違いないと思います。注目されるのは例えば、はやりの「FinTech(フィンテック、金融とITの融合)」ですね。この国では、一足とびにモバイル決済に進む可能性がありますね。

 

【インタビューを終えて】

対外開放が進み、目まぐるしく環境が変化するミャンマーで、ミャンマー企業が時代に即した経営戦略を立てるには、どうしても専門家のアドバイスが必要だ。オバマ米大統領は対ミャンマーの経済制裁解除を表明しており、これから「ハゲタカ外資」がミャンマーに押し寄せる可能性もある。ミャンマー企業の守護神としての後藤さんの活躍に期待したい。(掲載日 2016年10月7日)