「中核幹部は生え抜きで」 良好な労使関係築く ハニーズガーメントインダストリー代表取締役の井口猛さん

中国の人件費高騰や反日運動などに起因するチャイナプラスワンの動きを受け、ミャンマーに製造拠点を置く企業が増えている。その中でも目立つのは、縫製業だ。2012年度にいち早くミャンマーに工場を立ち上げたハニーズガーメントインダストリーの代表取締役、井口猛さんに現状を聞いた。
 

――ハニーズは婦人服専門店など1,300店舗以上を展開する製造小売り(SPA)として知られていますね。どうしてミャンマーに進出することになったのですか。

 

実は、ハニーズは以前、中国で多くの商品を生産していたのですが、それらはすべてを委託生産でした。しかし、人件費が高まるなどして中国は生産拠点として機能しなくなりました。そこで5年前に人件費が中国の10分の1だったミャンマーに目をつけたのです。

 

ミャンマーでは、それまでと違い直営工場としました。結果的にこれは正解だったと思います。ミャンマーに進出している中国や韓国の工場は、顧客からの委託生産のため生産量に波があります。注文が多い時期には、厳しい残業がある一方で、注文が減れば人員を削減することになります。その点、私たちの工場はすべてハニーズが買い取りますから、安定した生産ができます。そのことは、従業員にもよく話をしています。


井口猛(いぐち・たけし)さん婦人服をメインとする製造小売(SPA)のハニーズのミャンマー子会社、ハニーズガーメントインダストリー代表取締役。早稲田大学卒業後、ゼネコンの飛鳥建設で海外事業を手掛け、香港や米国などに駐在した。その手腕を買われて2014年にハニーズに入社。ヤンゴン・ミンガラドンにある工場の責任者となり、2カ所あわせて約3,600人の従業員を率いる。
――昨年9月に最低賃金制度が実施され、大幅な増額となる日額3,600チャットとなりました。当時、縫製業からは悲鳴が聞こえました。ストライキが頻発し、従業員を全員解雇したというニュースもありました。

 

昨年9月の最低賃金導入の際に4割ほど1人当たりの人件費が上がり、その後も1割程度昇給をさせているので、今では計5割ほど増えた計算になるでしょうか。導入当時、中国や韓国の工場は手当をすべて廃止して最低賃金にあわせるような制度に変えました。その結果、かえって給料が減る労働者もいたそうです。それではいくらなんでも怒りますよね。私たちではそういうことはしません。こまめに昇給する制度を導入して、モチベーションを持てるようにしています。

 

上昇しているとはいえ、人件費はまだ安いですね。課題は、従業員の定着です。2012年に稼働した第一工場では、だいぶ辞める人が少なくなってきました。しかし、昨年3月に立ち上げた第二工場ではまだまだですね。長く勤めると給与が上がる仕組みですので、第一工場は第二よりも1人上がりの人件費が高いのです。しかし、それでも、長く続けてもらったほうが、生産性が高くなるのでメリットがあります。

 

給与水準はもちろん重要ですが、辞めるのは人間関係によるところが多いのです。そのため、弊社の工場では暴力と暴言は絶対に禁止としています。もちろん、仕事で厳しいことを言わなくてはならないこともあるでしょうが、暴言はいけません。あとは労働時間も重要です。合意のない残業はさせません。そうしたこともあり、私たちの労使関係はうまくいっていると思います。大きなストライキは一度もありません。

 

日本と違って、一生私たちの工場で働こうという意識はミャンマー人従業員にはあまりありません。ただ、私は例えば数年後に会社を辞めたとしても、ハニーズの工場で身に着けた技術を生かして、自分で仕事ができるくらいになってほしいと思います。

 

一方で中核の幹部は、工場の生え抜きのミャンマー人従業員を起用したいと思っています。いかに優秀な人材を高い報酬で引っ張ってきたとしても、そうした人間はまたほかに移っていきます。そうではなく、自分の会社であるという意識を持ってほしいのです。現在、第一工場で経験を積んだ人材が第二工場の幹部として赴任しています。こうした内部の人材育成を進めていきたいと思っています。

 

――ミャンマーは生産拠点としての課題は多いと思います。

 

そうですね。1日5、6回停電することもありますし、発電機がなくては仕事にならない状況ですね。電気、水、交通と言ったインフラが整っていないという点はありますね。ただ、新政権になって、政権幹部と話していると、前よりも外国投資を呼び込もうという姿勢は強いのかなと感じます。商業省などは特にそうですね。制度面でも投資法や会社法などが動き出していますし、金融環境も整ってきています。まだ、それで大きな変化が起こるというところまでは来ていないと思いますが、徐々にビジネスがしやすくなっていると思います。

 

【インタビューを終えて】

同社の工場を訪れると、大型展示会場のように広い工場の中で、見渡す限り従業員の作業台が並ぶ。ラインごとに従業員の女性がせっせとミシンで布を縫う。3,600人もの従業員の生活と、工場の経営の両方を預かる井口氏の苦労は計り知れない。

 

縫製業は、アジアに残り少なくなった低賃金労働者を求め、ミャンマーに進出した。しかし、賃金は急上昇しており、井口氏も「今後労働者の要求レベルはますます高くなっていくだろう」と予測している。人材の流動性も高い。この中でも井口氏はあくまで、従業員が「自分の会社」だと思える職場づくりを目指している。労使協調型の日本経営がミャンマーに根付くのか、今後に注目したい。(掲載日2016年12月2日)