マイクロファイナンス活かし「農村と企業つなげる仕組み作りたい」 MJIエンタープライズCEOの加藤侑子さん

ミャンマーで急増しているマイクロファイナンスは、数百ドル単位の小口の無担保融資で小規模ビジネスを促す仕組みだ。2011年の法制化以降、急激に増え、現在は約170のマイクロファイナンス機関があるとされる。そうした中で、マイクロファイナンスの枠にとらわれない事業展開を進めるのがマイクロファイナンス機関「MJIエンタープライズ」CEOの加藤侑子さんだ。加藤さんにミャンマーのマイクロファイナンスの持つ可能性について聞いた。

 

――マイクロファイナンスはノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が始めたバングラデシュのグラミン銀行が有名ですが、ミャンマーではどのように発展してきたのでしょうか。

実はミャンマーでもグラミン銀行を追うようにして、同様の試みが始まっていたのです。軍事政権で経済制裁を受けていた時代にも、少数ではありますが事業を続けていたマイクロファイナンス機関がありました。これらは、数人の利用者が互いに連帯保証するグループローンという形式をとっていました。そのため、現在でもこうしたコミュニティを重視するこうした手法が主流で、MJIもこの形式をとっています。

 

2011年になると、マイクロファイナンスが法制化され、それによって内外の企業やNPOが事業を開始しました。その後も法改正が進み、事業者は増え続け、今でもまだ外資の参入が続いています。大都市周辺では競争が激化し、マイクロファイナンスの知見がある人材の引き抜き合戦が激しくなっています。

 

しかしその一方でミャンマー全体を見渡すと、現在マイクロファイナンス機関は資金需要の3割程度しかカバーできていないとされ、まだ手つかずの市場が広がっている状況です。ただ、都市に近ければ競合が多く、まだ競合がいない地域は僻地が多いので営業コストが高くつくという難しさがあり、エリア拡大にはバランスを見極めないといけません。MJIとしては、ザガイン州やカチン州などのまだ競合が進出していないエリアに営業地域を拡大する準備を進めています。

 

――競争が激化する中で、現在力を入れていることは何ですか。


加藤侑子(かとう・ゆうこ)さん 

1984年、京都生まれ。高校卒業後、電機メーカーや証券会社、個人事業など多様な仕事を経験する。2013年、投資運用会社GCMのミャンマー事業に参画しMJIエンタープライズをヤンゴンで立ち上げ。2016年同社CEOに就任した。経済的事情によって断念した学業に挑戦するため現在慶応大学経済学部に在学中。

 営業エリアの拡大ももちろんですが、既存エリアでの顧客サービスの強化も大切です。私たちの目標は「お金のせいで悲しい思いをする子供をなくすこと」ですが、融資だけではこの課題を解決できないからです。現在、顧客のビジネスをサポートできる体制を整えることを進めています。ビジネスがうまくいかなければ、事業が継続できなくなります。そうしたドロップアウトをなくすために、適切なアドバイスができる人材育成やシステム作りを進めています。

 

例えば、融資を受けて事業を始めた利用者の中にはお金や帳簿の扱いに慣れておらず、どれだけの費用や収入があるかわからない人もいます。そういった人に対して、「とりあえず領収証だけ必ずもらって保存しておいて」とアドバイスすることで、支出を把握できるように促すのです。

 

――単純な事業資金の貸付以外にも、いろんなサービスを行っていますね。

 

そうですね。マクロファイナンス事業を行ううちに、ミャンマーの農村部の生活実態が、私たちがこれまで知っている大都市の実態と大きく違うことに驚きました。ミャンマーの庶民を相手にしていても、そうした実態を理解してマーケティングを行っている外資系企業はほとんどないのではないかと思います。一方で、マイクロファイナンス機関は与信審査の過程で、各世帯の収入や職業、家族構成、健康状態などをデータ化しています。また、担当者は毎週、貸付金の返済ミーティングなどで顧客と接点を持っています。このマイクロファイナンスのネットワークを活用すれば、農村部のニーズと、企業のビジネスとをつなぎ合わせることができると気づいたのです。

 

昨年12月から、パナソニックの太陽光蓄電照明システム「ソーラーストレージ」の購入資金の貸付を始めました。また、マイクロファイナンス利用者向けの無料情報誌を配布することによって、ビジネスのノウハウや健康管理などの農村部に足りない情報を届ける事業も始めました。この情報誌は企業のプロモーションのツールとしても活用できます。それ以外にも、私たちのマイクロファイナンスのネットワークを利用して、農村の住民に対する調査やテストマーケティングを行うこともできます。農村で医療活動などのCSR(企業の社会的責任)活動を行う際にも、手助けをすることができます。こうした仕組みを作ることで、農村と企業をつなげる懸け橋になることができればと思っています。

 

【インタビューを終えて】

 加藤さんとは、情報誌の仕事などを通じて旧知ではあるのだが、しっかりと話を聞いたのは今回が初めてだった。愛想の良い普段の様子からは想像がつかないほど、顧客である農村の住民の様子をよく見ていると感じた。そうした現場で感じたニーズをビジネスにつなげるうえで、マイクロファインナンスがどんな役割を果たしていくのか。加藤さんの今後の活躍に期待したい。(掲載日2017年4月28日)