「金融システムでマイクロファイナンスを支える」 リンクルージョンの黒柳英哲社長

 

ミャンマーで急速に発展するマイクロファイナンス業界。ほとんどの国民が銀行口座を持たないこの国で、貧困層や農村部の人が小口融資を元手にビジネスを始めるきっかけになるとして注目されている。隣国バングラデシュでこの分野を切り拓いたムハマド・ユヌス氏はノーベル賞を受賞している。ミャンマーで、そのマイクロファイナンス専用の金融システムを手掛けるのがリンクルージョン社長の黒柳英哲さんだ。どうしてこの分野に注目したのか、その狙いを聞いた。
――ミャンマーのマイクロファイナンスは、日本のイオングループやマルハングループが進出するなど、ホットな分野ですね。その金融システムを開発しているということですが、どういったものなのでしょうか。

 

「ミャンマーではマイクロファイナンスが拡大していますが、ほとんどの事業者は顧客管理などを紙ベースでおこなっています。それでは作業が膨大になりますし、間違う危険性もあります。そこで我々は、業務管理や顧客管理を行うシステムを提供しています」

 

「この国のマイクロファイナンスは基本的に、多数の保証人を必要とするグループローンという形を採っています。しかし、国際的な潮流からすると、個人の責任で貸し付ける形に移行していて、ミャンマーもいずれそうなっていくと思います。そうした場合、事業者のリスクが増しますから、顧客データの分析が重要になってくるのです」

黒柳英哲(くろやなぎひでのり)さんリンクルージョン社長。1980年生まれ、36歳。ホテルマンなどを経て、NGOの調査でミャンマーを訪れたことをきっかけに起業。2015年に金融システムの日本ブレーンとともにリンクルージョンを設立した。
 

「日々の作業の効率化も重要なのですが、その一方で事業の戦略やプロジェクトの立案のためにデータが必要になるという面もあります。マイクロファイナンスの最終的な目的は貧困の解決ですが、データを採って分析しないと、その事業が借主の貧困からの脱却につながるのかが分かりませんよね。私たちのシステムで管理されたデータを分析していくうちに、着実に所得アップに繋がるより効果的な施策が打てるようになるはずです」

 

――なるほど、そういったニーズがあるのですね。とことで、黒柳さんはどうしてこの分野で起業することを決意したのですか。

 

「学生時代からバックパッカーをして世界を旅していました。シリアなどで地元の人の家庭で料理をふるまってもらうなどしているうちに、生まれながらにして人生の選択肢が狭められている人がいるという現実が見えてきました。今思うとそういったことが原体験になっているような気がします。旅をする中で、NGOや青年海外協力隊で働いている人にも会い、あこがれたのを覚えています」

 

「2011年に東日本大震災が起き、仕事をやめて東北支援をすることにしました。岩手県などで活動をしていたのですが、その縁で、2013年のある日、突然NGOの関係者から『ミャンマーのマイクロファイナンスの調査に行かないか』と声をかけられたのがこの事業のきっかけでした。ミャンマーに来て、関係者に聞き取りをするなど調べてみると、いろんな課題があるものの、非常に将来性が大きいことがわかったのです」

 

「課題のひとつに、情報管理ができていないために、貧困の解決に本当に効果があるのかわからないという点がありました。そこで、日本に帰国してから、今のパートナーである日本ブレーンの友人に相談しました。この会社は、もともと日本の地方銀行や保険会社向けのシステム開発をしている企業です。相手も興味があるということだったので、共同で事業を開始しました。起業がしたかったのではなく、プロジェクトのために会社が必要だったという感じですね」

――ミャンマーのマイクロファイナンス事業者はいずれも小規模ではないかと思いますが、実際のビジネスモデルはどうなっているのですか。

 

「顧客はミャンマーのNGOなどの事業者ですが、確かに金融システムの導入だけでは大きなビジネスにはなりません。地元の事業者には資金力がないので、初期費用はなく月額使用料を頂く形になります。このビジネスのポイントは、ミャンマーのボリュームゾーンである低所得者層のデータが得られることです。いま4つの事業者にシステムを納入することになっているのですが、あわせておよそ4万世帯の16万人程度のデータを活用することができるようになります。この層は、なかなか外国企業にはアクセスが難しいところですので、データの活用の余地は大きいはずです」

 

「例えば、日本企業がミャンマーの一般大衆に消費財を売る場合、当然ですが市場調査を行います。ただ、この国では調査が高く時間もかかるうえ、思ったような精度の調査ができません。我々は、融資先の所得や家族構成などを把握していますので、そのデータをマーケティングに生かすことができます。また、マイクロファイナンス事業者は日ごろから聞き取り調査をしながら与信管理を行いますから、その過程で市場調査をすることもできます。こうした精度の高い調査のほか、テストマーケティングなども可能です。ミャンマーの一般市民の玄関にまでアクセスできることを利用して、新たなビジネスにつなげていきたいと思っています」
(掲載日 2016年8月12日)