ミャンマーのカード元年を先導 JCBヤンゴン支店の松下裕二さん

クレジットカードどころか、国民のほとんどが銀行口座すら持たないミャンマー。2016年はクレジットカードやデビッドカードが次々と誕生、ミャンマーにとって「カード元年」とも言われるようになった。この大きな変化を先導したのが、ミャンマーの金融業界に幅広い人脈を持つJCBヤンゴン支店カントリーマネジャーの松下裕二さんだ。カード文化がミャンマー社会をどう変えるのかを聞いた。
 

――ミャンマーでは、2003年の金融危機などがあり、クレジットカードが長い間使われていませんでした。松下さんは、JCBのミャンマー進出当初から担当されていたのですね。

 

私が初めてミャンマーを訪れたのは、2011年です。ヤンゴンの銀行に行くと、札束が山脈のようにうず高く積み上げられていました。銀行を訪れる客よりも行員が多いような状況でしたが、行員たちはたくさんのお札を数えていました。これはいずれ電子化されて、台車に乗せて大量のお札を運ばなくてはいけないような状況はなくなるはずです。

 

その変化の中でカードが果たす役割も大きいのです。実際にこの5年で劇的な変化がありました。ATMが街に出現し、今年はクレジットカードが誕生しました。JCBも8月にエーヤワディ(AYA)銀行、11月にコーポラティブ(CB)銀行と組んでカードを発行しました。正直、よくここまで来たと思います。

 

ミャンマーでは、中央銀行が主導する形で設立した決済機関ミャンマー・ペイメント・ユニオン(MPU)があります。JCBはMPUと2012年11月にいち早く包括提携しました。今年発行したカードも、JCBとMPUの共同ブランドのカードになります。実はインドやモンゴルなどの新興国でも、中央銀行がナショナルブランドを立ち上げる動きがありました。その中で、新興国では中銀のシステムと組むべきだという戦略を描いたのです。


松下裕二(まつした・ゆうじ)さんJCBヤンゴン支店カントリーマネジャー。1975年生まれ。1998年に中央大学卒業後、ジェーシービー(JCB)に入社。タイ駐在などを経て2016年7月のヤンゴン支店開設とともにヤンゴン駐在。ミャンマーではサッカーを通じた交流にも力を入れている。
一方で、ビザ、マスターといった欧米系のカード会社はMPUと組むことはせず、民間銀行と個別に提携してカードを発行しています。規制によって国内で発行するカードはMPUを通すことになっていますので、実はミャンマー国内で発行されているビザやマスターは、外国では使えるものの、ミャンマー国内では使用できません。この点、JCBカードはMPUネットワークの国内7,000店で利用できますから、ミャンマー人にとってはとても便利です。

 

中国の銀聯カードもMPUのネットワークを利用しているので同じ土俵で競争していると言えますが、国際的なネットワークではJCBが上回ります。ミャンマーの人にも、このようなサービスや利点が認められてきていると思います。

 

――普及への見通しはどうですか。

 

12月15日から、CB銀行の新規のキャッシュカードにはすべて、JCBのデビット機能が付属されるようになりました。これでCB銀行の顧客は、順次JCBカードを持つことになります。給与が銀行振り込みになる動きが進んでおり、はじめはATMで現金を下ろすだけだった人でも、お店でカードを使って買い物ができるという体験をしてもらえば、そのメリットが実感できるはずです。

 

個人的には、ミャンマーではクレジットよりもデビットが先行して普及すると考えています。まずはデビットでカード文化を普及し、カードの利用を習慣化してもらうことが大切です。ますデビットでシェアを確保することを重視しています。

 

――カードが普及することで、拡大が期待されるのはEコマースの分野ですね。

 

そうですね。Eコマースにはとても注目しています。一口にEコマースと言っても、データを購入するものと、物品を購入する2つに分けられますが、このうち音楽やゲームなどのデータ購入は一気にハードルが下がります。一方で、物品は物流の問題がありますから、もう少し時間がかかるかもしれません。

 

ミャンマー人のEコマースに関しては、JCBとMPUの共同ブランドであることが重要になってきます。MPUはミャンマー国内でしか使えないため、ほとんどのショッピングサイトでは対応していません。Eコマースを利用するミャンマー人には、JCBのブランドがあることがとても意味があるのです。

 

――松下さんは普段から民族衣装のロンジーを着用していて、トレードマークのようになっていますね。はやり現地に溶け込もうという意思の表れでしょうか。

 

いえ、実は当初はそうではなかったのです。ミャンマーに知人ができますと、何かとロンジーをプレゼントされる機会が多いので、着るようになったのです。いつも着ていると、また他の人からプレゼントされ、さらに着続けるようになっていったというのが本当のところです。以前タイからヤンゴンに出張していたときはそれでもよかったのですが、ヤンゴンで家族と一緒に生活するようになると、毎朝ロンジーに着替えて出勤することに抵抗感もありました。しかし、子供が「いいね」と言ってくれたので、着続けています。

 

ミャンマーの仕事は、JCBの中で一番やりたい業務だと言ってもいいと思います。カードでもっともっと便利になっていく今の時期に仕事ができることはとても幸せです。ただ、ミャンマーのカード文化は始まったばかりです。顧客のニーズが多様化するにつれ、法人向けや航空会社のマイレージカードなど様々な種類のカードが求められると思います。これからますます面白くなりますね。

 

【インタビューを終えて】

世界に出ると、日本では存在しない大きな仕事に従事している人に出会う。一国の決済カードの立ち上げに関わり、庶民のお金の使い方を変えるなど、日本では到底ありえないスケールの仕事だ。松下さんの語り口からは、その仕事を存分に楽しんでいる様子が伝わってくる。これからもこの挑戦を楽しみながら、ミャンマーに変革を起こしてほしい。(掲載日2016年12月16日)