「ミャンマーの子どもに考える教育を」 小学校教科書を一変させるJICAプロジェクト総括の加藤徳夫さん

ミャンマーでは長い軍事政権下で子どもに考えさせない暗記教育が続いていた。それを時代に合わないと改革を進めるミャンマーを支援するのが、日本の国際協力機構(JICA)だ。小学校のカリキュラム改革という国の根幹にかかわる大プロジェクトを総括としてとして取り仕切るのが、パデコ取締役執行役員の加藤徳夫さんだ。
――ミャンマーでは、長年の暗記教育のせいもあり、応用力がない人材が多いなどという悩みが、外資系企業から聞こえて来ますね。このカリキュラムと教科書を改訂するプロジェクトが生まれた経緯について教えてください。

 

はい。ミャンマーでは、教科書を暗記するという教育が長らく行われてきました。しかし、ミャンマー政府がずっとそれでよいと考えていたかというとそうではなく、1997年のミャンマーの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟をきっかけに、「国際水準の教育が必要だ」という声が上がりました。

 

そこで、当時から日本政府が「児童中心型の教育」

を取り入れるための研修などを行ってきたのです。

そして2011年に民政移管となると、本格的に教科書を変えようという話になり、2014年からこの「初等教育カリキュラム改訂プロジェクト」が始まりました。現在、小学1年の教科書が完成して、この6月から全国の小学校で使われています。今後、小学5年までの全学年のカリキュラムと教科書、教員の指導書を完成させる予定です。


加藤徳夫(かとう・のりお)さん

1958年、愛知県生まれ。中学教員を経て、海外青年協力隊などに参加し、国際協力の道に進む。名古屋大学で博士号を取得。現在、開発コンサルタントのパデコの取締役執行役員として、JICAのミャンマー初等教育カリキュラム改訂プロジェクトの総括を務める。

――具体的には何が変わったのですか。

 

ミャンマー語、英語、算数、理科、社会、体育、道徳・公民、ライフスキル、音楽・図工の全教科のカリキュラムと教科書を全面的に改訂しています。これまで白黒であった教科書をカラーにし、絵や写真を多用するようにしました。また、教師用の指導書がなかったので、これも新しく作っています。また、ミャンマーには主要科目以外の体育や美術などは、教科としては存在していたものの、教科書がなかったためきちんと教えられていなかったのが現状で、それについては新しく教科書と指導書を作りました。また、日本の学習指導要領にあたる「カリキュラムフレームワーク」を初めて作成し、これは教育省に承認されています。

 

教師が一方的に教えた内容を暗記するのではなく、児童に考えさせる探求型の内容を多く盛り込んでいます。応用力、思考力、問題解決能力を養うことが目的です。例えばミャンマーでは教科書を暗唱させる授業が多いのですが、暗唱をさせては児童が考えなくなるのでなるべく少なくして、「どうしてか考えよう」「調べてみよう」という問いを多く作りました。例えば、道徳の文章を読んだ後に、「あなただったらこの時どうしますか」などという質問を盛り込んでいます。

 

現在JICAの専門家40人と、ミャンマー側の約60人が、各分野ごとに4~6人のチームを組んで作業を行っています。新しい授業案を作っては、13校ある実験校で実際に授業をしてみて、その後また改善するというプロセスを繰り返しています。

 

――非常に根本的な改革ですので、実際に授業をする教員がきちんと新しい手法を身に着けないといけませんね。そのほかにも多くの課題がありそうですね。

 

はい。教員については、小学1年への導入を前に、全国教員10万人を対象に14日間の研修を行いました。ミャンマーでは全国的な教員研修が行われていなかったので、初めてのことになります。ここで、新しいカリキュラムの教え方を伝えています。6月に始まったばかりですが、徐々に「ここはどうやって教えればいいのか」などという現場の悩みの声も聞こえてきています。また、教員以外にも、保護者の理解も必要ですので、テレビCMをつくったほか、授業が変わることをテーマにしたテレビドラマを制作中です。いずれも、教育省の働きかけで、テレビ局が無料で流す予定となっています。

 

そのほか、ミャンマー政府の予算の問題があります。現在、全国の小学校1年生には主要教科の新しい教科書が行きわたっていて、これは評価するべきところと思います。しかし、まだ体育などの教科書は児童には予算の都合で配布されていません。また、ボールや絵の具、ミャンマーフルートといった体育や音楽で使う教材については、1人に1つ行きわたることが望ましいのですが、現在は35人に1つ程度しかありません。教材については、例えば企業の社会的責任(CSR)活動で楽器やボールをドネーションしてもらうことも可能ですので、日本企業にはぜひご協力をお願いしたいと思います。

 

【インタビューを終えて】

教育が国の根幹であることは、ミャンマーに来ると実感できる。多くの若者が塾に通って試験対策のために必死に勉強する一方で、自分の意見をきちんと説明できるミャンマーの若者は少ない。しかし、対外開放や民主化によって、ミャンマーの若者も自由と競争にさらされ、自ら考えて将来を切り開く能力はこれまでよりも求められてきている。一方で、日本も画一教育からの脱却が叫ばれて久しく、そのために社会の問題を取り上げる「よのなか科」や民間との連携など様々な試行錯誤を繰り返してきた。この日本の経験をミャンマーの子どもたちの教育に役立てられるというのは、大きな意義があるだろう。新しい教育のもとで育った新生代のミャンマー人の活躍に期待したい。(掲載日 2017年8月18日)