ホンダのDNAは仕事の中で伝える 現場主義貫くホンダミャンマー事務所長の野寄真市さん②

 積極的な出店で飛躍的に売り上げを伸ばしたホンダミャンマー事務所長の野寄真市さん。空白地域を専売店で埋める戦略だが、ポイントはそれだけではない。3S(販売、スペアパーツ、サービス)をしっかりと提供できる店舗を作るのが重要だと野寄さんは強調する。インタビューの第1回(2月3日号)に続いて、今回はどのようにしてミャンマーにホンダの手法を定着させているかを聞いた。
 

――創業者の本田宗一郎氏ら、ホンダにはものづくりのフィロソフィーがありますね

 

はい、創業者以来のホンダのDNAとも呼ぶべきものがありますね。チャレンジ精神もそうですし、現場、現物、現実をしっかり観る三現主義も大きなところです。例えば、販売店も訪れなくては本当のところはわかりません。「夢」もまた大事にしています。ホンダは「パワー・オブ・ドリームズ」ですが、トヨタは「ドライブ・ユア・ドリーム」です。

 

また、理由をとことんまで考える「なぜなぜ10回」という思考方法があります。なぜなんだ、どうしてなんだと、倒れるまで深堀りします。「何が売れている」という報告すると、上司から「どうしてなんだ。お店はどうなんだ」と言われ、もう一回調べます。だいたいは3回で倒れますね。

 

 

――そこのところは、ミャンマー人は苦手とするところかも知れませんね。育った環境も仕事への考え方も違うミャンマーの人に、ホンダの考え方をどのように伝えているのですか。


野寄真市(のより・しんいち)さん1983年本田技研工業に入社。2輪の担当が長く、香港やイランに駐在した海外市場開拓のエキスパート。2015年4月にミャンマー事務所の所長に就任した。日本の大学でも教鞭をとる。
これは自分が一緒に仕事をしながら伝えるしかないですね。例えば、シャン州にタウンジーという都市があります。そこは学園都市で学生が多いのです。この町の販売店を訪れた時に、他の都市と同じような売り方をしていることに気づきました。 そこで、その現場にあった販売方法を提案するのです。「女子学生も多い。女子学生はサンダルでなくて靴を履く人も多く、それならスクーターが売れるのではないか」などと提案をすることで、販売店側も深く考えることになります。また、親が子どもにオートバイを買い与えるケースもあります。そうすると、子どもと連れてきた親に対して、キーホールダーやポロシャツをプレゼントする手もあります。そうすると「世界のホンダがそんなことしてくれるのか」と、親から親のクチコミが伝わっていくのです。こうした共同作業を通じて、実際に三現主義を販売店に体験してもらうことが私の仕事です。

 

事務所のミャンマー人スタッフでも同じです。例えば、パワーポイントのプレゼン資料を作る時に、スタッフが最初に持ってきたものに対して、「よくできたね」と言いながら赤ペンをいれます。次に持ってきたのにもまた入れる。7枚目くらいになって、「最初の資料と比べてどうか」と聞くと、スタッフは「この方がわかりやすいです」と答えます。スタッフ自身も、自分が作った資料が良くなっていくのが実感できます。これは三現主義の一つです。この過程で「なぜなぜ」のプロセスも発生します。

 

――空白地帯に積極出店する戦略もホンダ的ですね。

 

そうですね、我々が需要を創りだすのだという考え方です。敢えて空白地帯に先駆者として出て、起爆剤になるということなのです。例えば、2012年にバゴー管区の野原のようなところだった道路にホンダが販売店を出店したところ、通りの両側にどんどんほかの店ができてきて、いまはもう50軒以上のバイク店や関連商品の店が立ち並ぶバイク街が形成されたという例もあります。

 

――ミャンマーでは今後どのような展開を考えていますか。

 

何より、2輪の販売店の体制をしっかりすることですね。現在のように売り上げが増えているときには、売ることに必死になり、サービスがおろそかになることが怖いのです。今は3Sのサービスをしっかりと定着させることに注力しています。

 

4輪に関しては、ホンダのフィットなどの中古車が大量に輸入されています。そこで、中古車ユーザー向けに、4輪のサービスセンターを12月に立ち上げました。中でも、ハイブリッド車の修理などはきちんと研修を受けた技術者でないと難しいので、そうしたニーズにもこたえられるようにしています。

 

4輪はミャンマー政府の自動車政策がまだ定まっていない状況です。正規の新車販売は有利になる方向ではあるものの、まだ政府自体が自動車政策をどうしようかと暗中模索している状況だとみています。今後の市場環境を注視したいと考えています。

 

【インタビューを終えて】

2回にわたりインタビューに登場いただいた野寄さんの口からは、ホンダの企業哲学が熱く語られた。日本の製造業が苦境にある中で、世界の現場で夢を語り、地元の関係者を巻き込んでいく姿勢は、まさしく本田宗一郎から引き継がれた伝統に裏打ちされたものなのだろう。イランなど厳しい環境で市場を開拓してきた企業戦士が、ミャンマーの何を変えていくのか、今後も注目したい。(掲載日2017年2月17日)