消費過熱でインフレ拡大の恐れ 「引き締め策が必要だ」 辛口の分析続けるエコノミスト、佐藤清一郎さん

外国投資によって急速に発展を続けるミャンマー経済。その発展に裏にあるリスクの指摘を続けるのが新興国経済のスペシャリストで、大和総研の現地法人DMSのチーフエコノミストを務める佐藤清一郎さんだ。マクロ経済の視点から、経済成長に浮かれるミャンマー人や投資家たちに警告している。ミャンマーの何が危ういのか、佐藤さんに聞いた。

 

――ミャンマー経済の脆弱さについて再三指摘していますね。どういった点に懸念があるのでしょうか。

まず、巨額の貿易赤字ですね。2011年の民政移管後に対外開放政策をとったため、輸入が拡大し、2015年度には貿易赤字が約60億ドルに達しています。これは、通貨チャットの値下がりにつながり、インフレ圧力になります。

 

また、不動産価格が上がったことや、外資系企業などの購買力が上がったことに加え、海外から自動車や携帯電話などの商品が大量に入ってきて消費意欲が高まっています。しかし、ミャンマー産の魅力的な商品は少なく、多くの商品を輸入しているため、貿易赤字につながります。

 

2015年度は11.4%のインフレ率でしたが、このままではチャットの減価が進み、一層のインフレが進むことになります。インフレ率が20%に達する可能性もあります。これくらいになると、庶民の生活が立ち行かなくなり、新しい商品を買うどころではなく生活するだけで精いっぱいで一気に景気が減速します。


佐藤清一郎(さとう・せいいちろう)さん

 

大和総研のミャンマー現地法人DMSのチーフエコノミスト。インドネシアやロシアなどで研究した新興国経済研究のエキスパート。2014年からヤンゴンに駐在し、ミャンマー経済のリスクについて警鐘を鳴らしている。

一方で、チャットが紙きれになるようなハイパーインフレの可能性は低いと考えています。ミャンマーでは銀行が未熟で信用創造(銀行が金を貸すことで通貨供給量が増えること)がまだまだ小さいためです。また、国際経済の中でチャットの重要性は低いので、海外の投機家がチャットに売りを浴びせるケースも考えにくいと思います。1997年のアジア通貨危機で空売りをしたジョージ・ソロスらも、チャットという通貨をよく知らないのではないでしょうか。

 

――このハードランディングを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

 

国民民主連盟(NLD)政権は難しい立場にあります。本来は、引き締め政策をとらなくてはいけないはずです。金利を引き上げる、規制を強化して輸入品が入ってこないようにする、などの政策です。しかし、これは景気を悪化させ、庶民生活に影響を与える政策ですから、政府としてはなかなか採用できません。「NLDに投票したら暮らしが良くなると思ったのに、逆に悪くなっているではないか」と批判に繋がりますから。

 

しかし、放っておけばインフレが進行して、限界を超えた時に一気に不況になります。物価がどんどん上がり、チャットレートが大幅に下がるので、生活物資すら輸入に頼るミャンマー人の生活への影響は大きなものがあります。早く手を打たなければならないのですが、今のところ政府は何もしていません。チャット防衛ということで、ドル預金の引き出し制限を強化するなどしていますが、そういった小手先の施策を打っても、貿易赤字などマクロバランスを改善しないことにはあまり効果がありません。

 

現実的に取りうる政策としては、しばらくはこのまま放置するのはやむを得ないとして、インフレ率が20%に近づいて「いよいよまずい」となった時に、引き締め策をとることでしょうか。それまでの間は、できるだけ輸出産業や輸入代替産業を育てて、貿易赤字を減らすことでしょう。

 

チャットの対ドル相場は今後も下落するでしょう。ヤンゴンの物価は経済水準に比べて高いと思います。チャットはいずれ現在の半分くらいになってもおかしくありません。そうした時には、輸出競争力がつくはずですが、輸出する商品がなくては話になりません。輸出産業を育成することが大切なのです。

 

外国投資は経済発展には必要なものなのですが、しっかりと経済成長につながる投資でなくてはいけません。インフラや法規制を整備をしないと、関連産業の育成につながる大型の製造業が呼び込めません。そして投資が不動産や株式など投機的な方向に向かってしまうと、バブルが生まれてインフレが加速します。ミャンマー経済の成長につながるタイプの投資を呼び込むことが大切になってきます。

 

【インタビューを終えて】

ヤンゴンで取材をすると、ミャンマー経済の明るい側面を語る人にはよく出会う一方で、悲観的な見方をする人は少ない。確かにミャンマーはラストフロンティアとしての可能性にあふれているが、そのリスクに目を背けていないかとも感じている。そんな中で、歯に衣を着せぬ佐藤さんの分析は大変貴重だ。客観性を持った視点を大事にしながら、この国の行く末を考えていきたい。(掲載日2017年3月3日)