「世界最後の使役ゾウを守りたい」 ミャンマーの動物を撮り続ける写真家の大西信吾さん

ミャンマーには長く海外から隔絶されていたこともあり、国際的に十分知られていない自然環境や生き物が多い。そのミャンマーの動物に魅せられ、25年以上にわたり写真を撮り続けているのが、写真家の大西信吾さんだ。ミャンマーでは動物の特性を生かし、木材などを運ぶ使役ゾウなど、人間と動物が協力して仕事する伝統があると説明する。ただ、ミャンマーの対外開放政策や経済発展、増大する中国の影響力などで、こうした自然は危機に瀕しているともいう。その意味を聞いた。

 

――大西さんは写真家として、ミャンマーに住む多くの動物を撮ってこられましたね。印象深い動物は何でしたか。

やはり、大型動物は、空気が違いますよね。大型の哺乳類に出会うと、気持ちが高まります。1998年か1999年ごろだったと思いますが、ジャングルで、ヒョウと10メートルくらいの距離で出くわしたことがあります。お互いびっくりして、私がカメラを構えたとたん、ジャンプして逃げられました。藪の中を、忍者のように音もさせずに去っていきました。

 

それが悔しくてね。絶対撮影してやろうと思って、次の時には木の上に板を敷いて、ヒョウを待ち伏せしました。大きなシカの死体が発見されたというので、もう一度食べにやってくるとにらんだのです。深夜に木の上で待っていると、「ガリッガリッ」と骨を砕く音だけがするのです。そこで懐中電灯で照らすと、子どもを連れたヒョウがシカに食いついているではありませんか。ストロボの音に驚いて一回は逃げていきましたが、その後またやってきて、その後はストロボを焚いても逃げずに、肉を食べていました。

 

このほか、体長5メートルくらいのイリエワニなどもすごいですね。私は超望遠レンズは使わずに、なるべく動物に近づいて撮影する主義なのです。ボートに乗って5メートルくらいまでは近づきました。巣を探しに行くときには緊張しましたね。そのほか、木を登るマレーグマも撮影しています。サンバーと呼ばれる200キロを超えるシカも撮っています。大抵は、森林局の保護官と一緒に撮影に行きます。最終目標はトラですね。


大西信吾(おおにし・しんご)さん

 

写真随筆家。1959年生まれ、愛媛県出身。琉球大学農学部卒業後、沖縄やタイなどの森林を研究。1990年に国際協力機構(JICA)の林業プロジェクトで渡緬。その後日本とミャンマーを行き来しながら、動物を撮影している。写真集「ゾウと巡る季節」(渓流社)など著書多数。

――ミャンマーのゾウの写真集も出版されていますね。

 

はい、ミャンマーは、何らかの労働をしている現役の使役ゾウが残っている世界で唯一の国です。主には、切り出した木材などを運ぶ仕事をしています。私は山ゾウと言っていますが、ミャンマーのゾウは山に住んでいるので、荷物を押したり引いたりする仕事に向いているのです。よく誤解されるのですが、無理やり困難な労働をさせているのではなくて、ゾウの特性にあった仕事なのです。また、この国では、「ミャンマー式択伐」という全部の木を同時に切るのではなく、少数ずつ切っていく自然を壊さない手法を取っている場所があります。そうした択伐の林にはトラックは入れず、ゾウでしか木材を運ぶことができないのです。日本の動物園のゾウの飼育員たちを、この使役ゾウの現場に案内したことがあるのですが、「筋肉のつき方が動物園にいるゾウとは全く違う」などと感動していました。

 

私は、この使役ゾウの将来を危惧しています。観光地のグエサウンなどに、観光客向けのエレファントキャンプができていますが、伝統的には彼らはそんな仕事をしているのではありません。世界で最後の使役ゾウを、そのままの形で残せないかと考えています。例えば、テーブルなどに使う高級木材などで、択伐方式を使っていたり、ゾウで運んでいたりするなど環境にやさしい点をポイント化して訴え、高く買ってもらえる付加価値とすることなどを提案しています。森を、保護地区としての「聖域の森」、ゾウなどが働く「資源の森」、人と動物が暮らす里山のような「生活の森」が同心円状になるように、場所に応じて保護していくのが良いのではないかと思います。また、イラワジ川にはイラワジイルカというに人間と協力して魚を獲るイルカがいますが、こうした漁も観光化するよりは、本来の漁のままで残してほしいと思います。

 

――密猟者などもいて、大型動物が減っているようですね。

 

ミャンマーが特殊なのは、ある意味で田舎の人は、皆がハンターみたいなものです。というのは、いつもパチンコを持っていて、いざ動物に出会うと、撃って仕留めます。それを食べたり売ったりするのです。こうした伝統的な猟は、数も少ないのでいいと思うのですが、問題は中国などの商人から依頼を受けて猟をするプロの密猟者ですね。中国からの商人はかなり入ってきているようですね。文化として狩猟をしている少数民族もいますので、きちっと減っている動物を法で定めて、猟を禁止するのがよいと思います。

 

――今後の展望を教えてください。

 

しばらく全面禁止されていた伐採が再開するので、また使役ゾウを撮影したいですね。使役ゾウの未来については、ずっと見てきた私が、今こそ声を挙げていかないといけないと思います。また、これまで撮りためたミャンマーの動物写真を、鳥や獣などと図鑑のような形でシリーズ化したいと思っています。

 

【インタビューを終えて】

ミャンマーの自然を軍事政権下の時代から撮影してきた大西さん。ロンジー姿の素朴な大西さんの口からは、びっくりするような体験談が次々と飛び出してきた。動物が相手であるだけに、予想のつかないことばかりだったに違いない。この体験から、動物と人間とがともに働く伝統文化を守ることを訴え続けている。この人の活動をもっと伝えていきたいと思う取材だった。(掲載日2018年3月16日)