「和平の果実を届けたい」と人道支援 政府と武装勢力の調整に汗する日本財団の梅村岳大さん

ミャンマー独立以来の最大の課題は、少数民族武装勢力との和平問題だ。独立後まもなく勃発した内戦はミャンマーに深い傷跡を残している。こんな中で和平を実現するため、笹川陽平・日本財団会長とともに、ミャンマーの少数民族地域を渡り歩いて人道支援をしてきたのが、3月まで同財団ミャンマー駐在員事務所の所長代理を務めていた梅村岳大さんだ。梅村さんに、少数民族和平の現場で何をしてきたのか語ってもらった。
――テインセイン政権下の2015年に8つの武装勢力との間で全土停戦協定が成立しましたが、まだ署名していない勢力も多く残っていますね。日本財団はこの和平を後押しする活動をしていますが、具体的にはどようなことを行っているのでしょうか。

 

日本財団は、少数民族地域での人道支援や住宅整備などを行っています。また、日本財団がハンセン病の制圧など1970年代からミャンマーで活動してきた信頼を生かして、ミャンマー国民和解担当日本政府代表の笹川会長は、政府と武装勢力との橋渡し役となっています。

 

2012年以降、延べ備も行っています。これは和平が実現したことによる目に見える「和平の果実」を少数民族側に実感してもらうことで、「和平を後押しする目的からです。平和が訪れてこだけ生活が良くなった」という声が増えることで、れ武装勢力の態度も和らぐはずです。


梅村岳大(うめむら・たけひろ)さん 

1982年生まれ、早稲田大学卒業。英国の大学院で修士号を取得後、日本財団に就職した。2012年にミャンマー事務所を立ち上げ、今年3月まで所長代理として陣頭指揮を執る。4月から東京の同財団国際協力チームのリーダーとしてミャンマー事業を担当している。

といっても、ミャンマー国軍と武装勢力は交戦状態ですから、そうした地域に人道支援の物資を届けるのは困難を極めます。政府側からみれば、敵に塩を送ることになります。また、武装勢力側には当初「政府の息のかかった援助は受けたくない」という声もありました。そこで、私たちがとったアプローチは、必ず政府側と武装勢力側の合意の下で事業を進めること、そして事業に透明性を持たせることでした。どの地域に何の食料をどのくらいいつどうやって配るかなど、詳細まで必ず双方に確認を取ります。まず、双方の実務レベルの担当者を集めて支援プランについて協議する場を設けています。また直接話したくないという場合も多く、我々がメッセンジャーとなりひたすら調整を繰り返します。また、不信感を払しょくするため米などの食料品を市場で調達するところから、武装勢力の担当者に同行してもらいます。

 

このアプローチには時間がかかるので、「もっと効率的にできないのか」という声もありますが、我々はこれがベストだと考えています。初めのころはマスコミにも批判されたのですが、今ではカチン独立機構(KIO)以外の主要武装勢力の支配エリアで活動ができるようになりました。こうした双方が共同で事業にかかわるプロセスを経て、信頼醸成を図ることも目的のひとつです。

 

-―それは本当に粘り強い調整が必要になるのでしょうね。当然ですがその過程では、銃を持った武装勢力との交渉に赴くわけですよね。恐怖や危険を感じたことはありませんか。

 

笹川会長などは、銃を構えた兵士が並ぶ武装勢力を訪れる時でも「どうも、どうも」というような態度ですし、私も何度も足を運ぶうちに、旧友を訪ねるような感覚になってきました。武装勢力といっても、実際に接してみると普通の人たちです。ミャンマーの引き裂かれた歴史にたまたま巻き込まれただけで、過激思想に染まっているわけでもなく、我々を拉致して身代金を要求するようなこともありません。もちろん、少しでも危険があるならやらないというのは当然のことですね。ただ、何回も何回も双方に確認してから事業を行いますので、ほとんどのリスクを抑えることができます。私は政府側と武装勢力側の両方と喧嘩もしましたが、喧嘩ができるほどの関係ができたということだと思います。

 

――国民民主連盟(NLD)政権が主導する21世紀パンロン会議の第1回会合は開かれましたが、次の会合のめどは立っておらず、話し合いは停滞しているとの見方もあります。どう見ていますか。

 

他の地域の和平交渉では、外国の仲介者がシナリオを描いて交渉をリードしていくスタイルもありますが、ミャンマーではこのやり方はそぐわないと思います。ミャンマーの場合は、武装勢力も分離独立を求めているわけではなく、連邦制を目指しているという点でミャンマー政府と一致しているのです。和平を求め歩み寄ろうとする気持ちも双方にあります。それならば諸外国は彼らの決定を後押しするということが、唯一できることなのではないかと考えています。

 

ミャンマーでは日本の民間投資などビジネスセクターが経済発展を支え、非営利セクターが和平や草の根支援を行っていて、オールジャパンで支援している形になっています。ミャンマー政府の日本への期待は強いと感じていますね。

 

【インタビューを終えて】

長年にわたって内戦を繰り広げてきた政府と武装勢力との間を調整するという難題に取り組む梅村さん。ごく当然のように武装勢力とのネットワークを築き、交渉を行っている。その苦労に比べ、語り口は淡々としており、梅村さんにとってそれは日常のひとコマに過ぎないのかも知れない。この問題を解決するために、こうした日本人のプロフェッショナルが現場を駆け回って活躍していることは、あまりに知られていない。今後もこうした人材が増えることを期待したい。(掲載日2017年4月14日)